切り紙絵・コラージュについて
私の処女作は、もしかしたら切り紙絵・コラージュなのかもしれません。クレヨンや色鉛筆を持つ前から、紙を切ったり折ったり貼ったりしていた記憶があります。画業の最初期、幼稚園の時には早くも多くの作品が登場します。切った紙片だけでなく色鉛筆やクレヨンなどの線描とも組み合わせたり、紙の文様や質感を活かした表現をしたりなど、子どもの頃の切り紙絵・コラージュには、今見ても大いに学ぶべき要素がふんだんに含まれていることに気付きます。
このような切り紙絵・コラージュですが、小学校低学年をピークにその後まったく制作されることはなく、次の登場は15年近く経った大学卒業時にまで一気に飛びます。サークルの卒展で巨大な着物切り紙絵四部作を展示しました。
その後の大学院時代2年間は、もっぱら切り紙絵に憑りつかれていました。この期間は、水彩・素描も数点描きましたが、制作する作品の九割九分は切り紙絵が占めています。学部時代に所属していた美術サークルは脱退したため、作品を発表する場は個人で参加する学園祭だけでしたが、そこに全てをぶつけました。
社会人になってからも、タブロー画と並行して切り紙絵・コラージュをつくっています。私にとっては欠くことのできない表現手法であり、今後もずっと制作を続けていきたいです。
幼稚園時代
coc001《いえ》1990年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.0×38.9cm
現存する最初の切り紙絵。折り紙で家をつくり支持体に貼り付けるとともに、クレヨンで人物を描いています。画面上にいくつも登場する白い丸は、雲か雪か、あるいは煙突から出る煙を表現しているのでしょうか。
coc002《かたつむり》1990年、クレヨン・折り紙・紙・切り紙絵/紙、27.0×39.2cm
こちらはクレヨンで描いたかたつむりを切り取り、支持体に貼り付けています。左にある黄緑と紫の折り紙でつくったものは何でしょうか。制作者本人も今となってはわかりません。
coc003《月とうさぎ》1990年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.0×39.4cm
夜を表現するために黒い画用紙を支持体に用いていますが、地面の緑、月の黄色、そしてうさぎの白との色合いが抜群に良いです。また円く切り取った一枚の紙ではなく、ちぎった紙片をいくつも使って月を表現しているのは、凸凹したクレーターを描きたいからなのでしょうか。うさぎの方は一枚の折り紙でつくっているため、その対比が余計に鮮明となっています。
coc004《くりとかきのき》1990年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.1×39.1cm
折り紙を折って栗と柿の実をつくっていますが、色合いがとても良いです。木や地面、太陽はクレヨンで描いていますが、メインモティーフを引き立てるためにラフなタッチとなっています。空を表現するために青い画用紙に貼り付けず、あえて黄緑にしているのは栗と柿の実の色との調和を考えてのことだと思われます。
coc005《ひなまつり》1990年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、19.5×27.0cm
雛人形をクレヨンで描いて切り取り、支持体に貼り付けています。右側の雪洞は黒い紙の上に赤い紙を少しずらして貼ることで、立体感を出しており、またフリーハンドでぐるぐると線を引いて光を表現しています。
coc006《くさもち》1990年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.4×39.4cm
よもぎを使った草餅は濃い緑色のはずですが、赤と黄色を使っているところに、現実を再現することから離れた自由な色彩の発想が見られます。「かわ」とあるのは「皮」と推察されます。さらに、あんこが飛び出しているところも描き、文字で説明を補足しています。造形と言語という異なる形式による表現となっています。
coc007《あじさいとかたつむり》1990年、クレヨン・マーカー・紙・切り紙絵/紙、37.8×54.0cm
coc006《くさもち》と同様、なにを表しているか文字で説明するキャプションを付けています。葉を「はぱ」と書くなど、まだ言葉の勉強が足りてない状況で制作していることがわかります。
coc008《きょうりゅう》1990年、クレヨン・コラージュ/紙、38.0×56.4cm
恐竜を描いた画用紙を切り取り、支持体に貼り付けています。尻尾の部分は支持体からはみ出しており、矩形の枠組みの中に表現していくという絵画の原理を打ち破っています。
coc009《たこ》1990年、クレヨン・紙・切り紙絵/紙、25.7×36.2cm
カイトではなくオクトパスの方のたこを表現していると思われます。赤く縁取った丸の中をあえて塗りつぶさないことに、特別な意図を感じます。
coc011《バッタ》1990年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.3×39.8cm
coc004《くりとかきのき》と同様に、メインモティーフのバッタは折り紙でつくって存在感を際立たせて、田んぼや案山子などはクレヨンでラフに、沈み込む色使いで描いています。画面の右半分に大きく空間をとることで、バッタが飛び跳ねながら前へ進む動きが生まれています。
coc012《ひなまつり》1990年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、54.0×38.0cm
千代紙の文様を活かして着物を表現するなど、後の切り紙絵作品で登場する手法が、すでに本作で見られます。未来を予言する作品となっています。
coc013《はなび》1991年、折り紙・切り紙絵/紙、27.0×38.3cm
丸、三角、四角という基本的な幾何学図形を用いた、抽象度の高い作品となっています。
coc014~coc018《切り紙絵》
- coc014《切り紙絵》1991年、折り紙・切り紙絵/紙、27.1×38.3cm
- coc015《切り紙絵》1991年、折り紙・切り紙絵/紙、27.1×38.3cm
- coc016《切り紙絵》1991年、折り紙・切り紙絵/紙、27.1×38.3cm
- coc017《切り紙絵》1991年、折り紙・切り紙絵/紙、27.1×38.3cm
- coc018《切り紙絵》1991年、折り紙・切り紙絵/紙、27.1×38.3cm
折り紙を何回か折って鋏を入れ、開いて獲得した形を貼り付けるという、とてもシンプルでプリミティヴな造形遊びですが、そこには切り紙絵の本質が全て詰まっているようにも思われます。絵画のように、形をつくって、次に色を塗るのではなく、その逆で、最初に何も表わさない純粋な色があり、そこに形を与えること、そして別個に切り取られた(あるいは切り抜かれた)紙片を一つの文脈の中で組み合わせることで生まれる関係、化学反応を楽しむことこそが、切り紙絵の特徴だと私は考えます。
coc020《きくのはな》1991年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.3×39.5cm
菊の花と葉を折り紙でつくり、支持体に貼り付けています。「おはか」と書かれていますが、幼稚園児で墓地を舞台としているのが厭世的で恐ろしいです。
coc021《あさがお》1991年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.0×39.2cm
朝顔の花の部分は、絞り染めで着色した紙を使うなど、ひと手間かけた表現となっています。
coc022《すいせん》1991年、鉛筆・折り紙・切り紙絵/紙、27.0×39.5cm
水仙の花の描写は水彩以上のものがあり、また花を活けている花瓶の文様も切り紙絵で表現するなど、幼稚園時代の集大成となる作品です。
coc023《うち》1991年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.3×39.4cm
幼稚園時代最後の切り紙絵は、切り取った画用紙の内部にクレヨンで描き込みを行うなど、次の展開を予感させるものとなっています。
小学校時代
coc024《むし》1992年、ペン・葉・コラージュ/紙、27.0×38.0cm
虫を表現するのに本物の葉を用いています。造形のみでは伝わりにくいと考えたのか、言語による説明も付け加えています。貼り付けるのにセロハンテープを使っているため、変色してグズグズに崩れてしまっているのが残念なところです。
coc025《風景》1992年、クレヨン・折り紙・切り紙絵/紙、27.0×38.0cm
地面は波打ち、樹木は傾き、ニッコリスマイルを描かれた雲が立ち込めるなど、なんでもありの風景が広がっています。大人になった今ではとてもできない、自由な表現です。
coc026《切り紙絵による文様》1992年、折り紙・切り紙絵/紙、27.0×38.0cm
幼稚園時代のcoc014~coc018《切り紙絵》に見られた抽象表現を小学校時代にも行った唯一の作品。2色の折り紙を重ね合わせることで、ポジだけでなくネガ構造による表現も行うなど、切り紙絵の手法も進化しています。
coc027《無人島》1992年、マーカー・石・コラージュ/紙、27.0×38.0cm
石でトビウオや太陽を表現していますが、残念ながら潮を吹いているクジラの部分の石が外れてしまっています。
coc028《ぺたぺたひろば》1992年、チケット・コラージュ/紙、35.9×25.2cm
夏休みに訪れた大洗の海水浴場や水族館など、旅行の思い出に関するペーパーをスクラップブックのように貼り合わせたもの。美術ではないかもしれませんが、切り紙絵の作品に含めています。
coc029《シーラカンスと鳥》1993年、水彩・紙・切り紙絵/紙、27.2×39.2cm
絵の具で絵を描いた紙をモティーフの形に切り取り、別の紙に貼り付けるという二重の手間をかけた作品。絵画なのか切り紙絵なのか、あるいはその両者を統合させたものなのか、このテーマには30年後に再び取り組むことになります。
coc031《色のリズム》1996年、水彩・紙・コラージュ/紙、39.1×27.0cm
小学校低学年以降、大学時代に復活するまでの間に唯一制作した切り紙絵。グラデーションに塗った細長い紙片を織物のように上下に組み合わせてリズムを出しています。
大学時代
coc034-01~04 着物切り紙絵四部作
- coc034_01《春》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、サイズ可変
- coc034_02《夏》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、サイズ可変
- coc034_03《秋》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、サイズ可変
- coc034_04《冬》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、サイズ可変
タブロー画で着物姿の女性像を描いていく中で、千代紙の文様を使った切り紙絵による表現ができるのではないかという仮説を立てるに至ります。色画用紙を切って貼り合わせたり、人体のパーツはペンで描くなど、習作で試行錯誤と検証実験を重ね、この方法に手応えと可能性を感じたため、サークルの卒展にて一気に巨大作品へと昇華させました。友禅和紙を反物のようにロールで入手して裁断し、パーツを貼り合わせていく行為は、扱う素材が紙か布かの違いだけで、着物をつくることと本質的に同じでありました。顔や髪、腕など人体の部分も紙でつくり、絵巻のように横長の画面で四季を表現し、ここに千代紙の文様を活かした切り紙絵という表現方法が確立されたのです。
大学院時代
coc035-01~15《きみのきもの》
- coc035_01《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、42.0×59.4cm
- coc035_02《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_03《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_04《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_05《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_06《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_07《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_08《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_09《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_10《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_11《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_12《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_13《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、110.0×80.0cm
- coc035_14《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、42.0×59.4cm
- coc035_15《きみのきもの》2008年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、42.0×59.4cm
卒展で獲得した方法論をさらに発展させて、切り紙絵人形をつくり、一気に並べてグラデーションにして展示しました。その数は実に303体、すべて違う文様の千代紙を使用しました。顔、髪、目、口、手足と各パーツを色画用紙で切り抜き、文様を活かした着物とともにパズルのように組み合わせて人物像をつくるというメソッドが確立され、その後の切り紙絵制作の基本路線となりました。
coc036《彩り模様》2009年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、90.5×61.0cm
前年は数で勝負のため粗製乱造になってしまったところもあり、この年は1体の切り紙絵人形を丁寧につくることを心掛けました。
アイメイクやつけまつげをして目ヂカラを強調したり、草履をはかせたりと、新たな試みを行っています。
coc037《就職活動採用試験不合格者=人間のクズのイコン》2009年、写真・紙・コラージュ/紙、29.7×21.0cm
就職活動で40ヶ所近く受けて、全て不合格でした。不合格通知の文字の部分を切り抜いて、冴えない証明写真と組み合わせたコラージュ作品をつくりました。凹むためのイコンのような、なんとも趣味の悪いものをつくって厄払いしたかったのでしょうか。
coc039《キュビスム風自画像》2010年、紙・切り紙絵/紙、90.5×60.0cm
大学院修了前後に制作したもの。学生時代最後の作品となりました。
履歴書等に貼る証明写真のような、あらゆるものを排除した堅い人物画のイメージです。
制作した時は背景の青い模造紙は皺がなくピンとしていたのですが、その後の保存状態が悪かったからなのか、皺が寄ってしまっています。
社会人第1章(2010年8月~2015年6月)
coc040《HAPPY BIRTHDAY!》2010年、千代紙・紙・切り紙絵/紙、31.7×30.4cm
当時片想いしていた女の子が誕生日を迎えるにあたり、贈ったもの。人物像以外では初の切り紙絵になります。千代紙の文様はプレゼントの包装紙やクラッカーのラッピングにも使えると考え、制作しました。切り抜いた部分を文字で使うネガ構造を用いています。
coc042《ふたり》2011~2012年、紙・切り紙絵/紙(左半分)、アクリル/紙(右半分)、108.7×76.5cm
社会人になってしばらくは油彩画を描いていましたが、ピンクのアーガイル柄の可愛い千代紙を見つけて、ぜひチェックのスカートにしてみたいと思い制作したものです。
異なる技法で二人の少女を表現するということをテーマにしています。左半分は、ブルーバックの背景とシールを貼った装飾も含めて全て切り紙絵による表現、それに対して右半分はアクリル絵の具で描いたもの、そして両者の境界線をまたいで画面の中央下部にサインを施しているのですが、ここも「Co」の文字は切り紙絵、「ya」の文字は絵の具と、原則を徹底させています。
社会人第2章(2018年5月~2023年10月)
coc044《誕生日ケーキ》2022年、グアッシュ・紙・切り紙絵/紙、18.2×25.7cm
37歳の誕生日に、coc042《ふたり》以来10年ぶりに切り紙絵を制作しました。色画用紙ではなく、白い画用紙にグアッシュで色を塗り、それを切り取って貼り付けたものです。
coc045-01《てへぺろガール》2023年、千代紙・紙・包装紙・シール・切り紙絵/紙、65.8×55.0cm
カラコンにして可愛らしい瞳を表現しました。最初は茶髪にしましたが浮いているように感じられ、黒髪の前髪ぱっつんに変更しました。
茶髪の方や、失敗してしまった切り紙は、表現上の効果を試す実験にして有効活用しました(coc045-02《てへぺろガールのための習作》)。切り取った紙による造形だけでなく、色鉛筆でアイシャドウや頬のチークを描いてみたり、輪郭線を引いてみたり、収穫は大いにあり実験は大成功、切り紙絵の表現の可能性の幅が広がりました。
coc047-01《少女の髪は風にたなびく》2023年、色鉛筆・紙・切り紙絵/紙、36.4×25.7cm
coc045-02《てへぺろガールのための習作》で獲得した色鉛筆でメイクをするという手法を取り入れました。かなり可愛く、また写実的にできました。
習作coc047-02《少女の髪は風にたなびくのための習作》では顔の造作がグチャグチャだったので、資生堂の初心者のためのメイク講座のページを見て学びました。男でも、美人画を描くにはメイクの勉強は必須なのかもしれません。
coc049《秋の収穫》2023年、色鉛筆・紙・切り紙絵/段ボール、45.0×26.9cm
2004年に大学の美術サークルの展覧会で作製した立て看板のデザインを、切り紙絵で再現しました。過去の作品の焼き直しではなく、再構築です。ダンボールの色や質感が上手く活かせたと思います。
coc050《鉄子微笑》2023年、色鉛筆・ペン・紙・コラージュ/紙、41.0×31.8cm
タイトルはもちろん、岸田劉生の《麗子微笑》をもじっています。鉄道が好きな女性、いわゆる「鉄子」をモデルにしていますが、色画用紙と色鉛筆を併用し、JRのSuicaのパンフレットや路線図、中央線や新幹線の広告写真などを切り取って背景にコラージュするとともに、ペンで水玉模様を描くなど、実験的な要素をふんだんに取り入れました。