ランツクネヒトの内心

これは、16世紀の神聖ローマ帝国の皇帝軍に雇われていた、一人のランツクネヒトが、組合の同胞にあてた手紙である。手紙の中で彼は、軍隊生活についての不満、上官である憲兵や輜重隊、酒保商人への愚痴、そして娼婦への複雑な思いなど、自分の内心を綴っている。

同胞ハンスへ

私が軍人服務規程に同意し、忠誠の誓約をしてからはや1年半が経とうとしている。今の戦争はまもなく終るだろう。そうすれば私たちはともに除隊され、路頭に迷う放浪者となるであろう。帰る場所はないし、以前のように農民に戻ることもできない。ランツクネヒトは戦争の中でしか稼ぐことができない。新しい雇い主を探すしかない。もしかしたら次は、互いに敵同士として戦うかもしれない。

明日の命も分からない身として、せめて今の軍隊での生活について書き残しておきたいと思う。いろいろなことがあったが、今にしてみれば、どれもこれも腹の立つことばかりである。これから書く内容は、あの理不尽な憲兵や、憎たらしい輜重隊の中でもとりわけ評判の悪かった酒保商人への不満、愚痴ばかりになってしまうが許してほしい。そしてそんな輜重隊の中において、負傷した私たちを手厚く看護してくれ、その他にもいろいろと尽くしてくれた、娼婦エルザへの私の率直な気持ちを書き記しておく。

私たちランツクネヒトにとって、輜重隊ほど憎たらしいものはなかった。奴らは民間人でありながら、私たちの行軍に、まるで寄生虫のようにべったりとくっついてくる。私たちと同様に、一応の服務規程があり、誓約もしているようだが、それらを守っている様子はほとんど感じられない。子供や女、若者から老人まで、とにかくいろんな人間がいて、のろのろと進むので、はっきり言って迷惑だといつも感じていた。後ろに引っ込んでいてもらいたい時に限って前に出てくるから、進撃の邪魔にもなるし。とにかく私たちにとってはお荷物であった。

もちろん輜重隊、特にその中の酒保商人が私たち軍にとって必要不可欠だということは充分知っている。食糧がなければ生きていけない。その他にも、武器やその他の必需品も扱っているし、洗濯や修繕などの諸々のサービスは確かにありがたい。だがどれもこれも、法外な値段なのだ。遅配や粗悪品は日常茶飯事だし、私たちの足元を見ているのが気に食わない。なぜ、兵士である私たちが、奴らよりも弱い立場にいなければならないのだろうか。

私たちは組合を作り、奴らの暴挙に対してさまざまな反抗をしてきた。そのことは、今でも間違っていないと思っている。

輜重隊も憎たらしいが、それ以上に憎たらしいのが、本来ならば奴らを取り締まるはずの憲兵である。酒保商人の違反に対して、厳しく取締りを行うべきなのに、賄賂をもらっているから見逃してしまっている。軍全体の秩序よりも、自分の私利私欲のことしか考えていないからどうしようもない。あんなのが私たちの上官であるから、私たちにはそれを批判することもできなのが、本当に理不尽である。
さらに言うならば、憲兵は明らかな差別を行っている。自分の気に入った輜重隊―――すなわちそれは女であり、娼婦である―――については、作業の免除まで行っているのである。許されざる行為である。

娼婦―――そう、娼婦である。最後に、私たちに尽くしてくれた娼婦エルザについて書くことにしよう。

不満ばかりの輜重隊において、彼女だけは違っていた。負傷した私を手厚く看護してくれた。進軍や宿営で、行動をともにするうちに―もちろんそれは、売春行為も含むのではあるが―私たちは、客と娼婦という関係、単なる性のパートナーという関係を越えた、強い絆が生まれていた。除隊した後は、結婚を本気で考えていた。

それなのにだ。彼女はある日突然、私のもとから離れた。そしてあろうことか、私の最も憎むあの憲兵の客となってしまったのだ。私たちの間に生まれたあの絆は何だったのだろうか。

結局、彼女も娼婦だったということか。私たちランツクネヒトと同じように、雇い主など誰でもよく、金銭のみの契約関係だったわけだ。それはある意味仕方のないことなのかもしれない。私たちランツクネヒト自身が、金銭で動く人間なのだから、彼女を責めることはできない。

彼女のことはもう諦めることにする。たとえ金銭のみの関係だったとしても、私と彼女がある時期、行動をともにし、強い絆を持ったことだけは確かだと、少なくとも私はそう思っている。

長々と書いてしまった。不平、愚痴しか書いていないが、これが今の私の内心である。

私たちも所詮は金銭で雇われたランツクネヒトだ。今の戦争はもうじき終わり、それと共に私たち組合も解散になる。おそらく、これから先二度と会うことはないだろう。娼婦エルザとの関係がそうであったように、私たち組合の関係も移ろいやすいものだ。

お互い、明日の命も知れない身だ。無事でいてくれというのは無意味な言葉だろう。除隊されれば、社会から疎外されて生きていくしかない。それでも、こうして同じ中隊に所属し、組合を作ったという事実は、私たちの中で残るものだと思いたい。

参考文献

  • ラインハルト・バウマン 著 菊池良生 訳『ドイツ傭兵の文化史 中世末期のサブカルチャー 非国家組織の生態誌 』新評論 2002年刊
  • C・メクゼーパー E・シュラウト 共著 瀬原義生 監訳
    『ドイツ中世の日常生活 騎士・農民・都市民』刀水書房 1995年刊