近代歴史学はランケによって確立された。その研究方法の特徴は、実証主義に基づく厳密な史料批判にある。
彼の歴史研究の信念は、「想像や想像を避け、厳密に事実に即すること」という言葉に集約されているように思われる。神学と歴史学とを区別し、歴史を科学的に叙述していこうというものである。
ランケは過去の出来事を叙述するという歴史研究の難しさを、客観性もって克服しようとしたように思われる。史料というものは、書き手の思想や信念などに大きく左右されてしまい、きわめて主観的なものである。そのような史料の内容を鵜呑みするのではなく、常に疑問、批判の目を持って厳しく見ていくことで、客観的な歴史研究を成し遂げようとしたのではないだろうか。
史料を厳密に批判し、信頼しうる事実のみで叙述を行うこと。現代からすると当たり前のように思われるこの歴史研究の方法も、近代になって初めて確立されたものである。実証主義という、近代に生まれた新しい概念が、歴史学に一つの確たるスタイルを与えたと言えるだろう。
実証主義は歴史学だけにとどまらず、自然科学、法学などのさまざまな研究方法に影響を与えた。いずれのものにも共通して言えることは、厳密な、客観的な事実のみに基づく研究方法であるということだろう。それは、学問そのものにとっての基本的かつ根本的な要素ではないだろうか。客観的な事実に基づいていない研究、叙述方法は、学問と呼ぶには足らない稚拙な、時として独りよがりなものになってしまう可能性がある。
実証主義ではまた、史料だけでなく、研究者自身にも客観性を要求する。史料批判が、書き手の思想や信念に左右されず、客観的に行われなければならないのと同じように、歴史の研究、叙述そのものも、研究者の思想、信念に影響されてはならない。歴史学が学問である以上、研究者が自分の都合のいいように歴史を研究、叙述することはあってはならない。厳密な史料批判、客観的な事実のみに基づく研究が、歴史学という学問を支えているのである。
近代歴史学を境に、とりわけランケを前後して歴史の研究者は「歴史家」から「歴史学者」へと呼称が変わったとされている。この呼称一つを見ても、ランケの厳密な史料批判による歴史研究が、学問としての要素となったことが分かる。「歴史学者」は「歴史家」と異なり、史料を厳密に批判すること、そして思想や信念に影響されず、客観性を持って歴史を研究、叙述することが要求される。
ランケが、歴史学者のあるべき姿というものを示したのである。