フランス語で言葉遊びを作る試み

はじめに

どのような言語でも、言葉遊びという現象は存在するのではないだろうか。日本語において身近なものを挙げてみても、しゃれやなぞかけなどさまざまなものがある。そしてもちろんフランス語においても、言葉遊びというものはあり、授業の中でいくつかの例を見てきた。そのような言葉遊びは同形異義や同音異綴などを利用したものであり、楽しみながら語彙のさまざまな側面を知ることができるため、言語を学ぶ上でも非常に重要なものなのである。

ここでは、授業に出てきた言葉遊びをいくつかのグループに分類し、それぞれ考察を行い、それらを踏まえた上で新たな言葉遊びを自分で作るという試みを行うことにする。言葉遊びを作ることによってさまざまな語彙に触れることによって、フランス語の良い学習の一つになるのではないだろうか。

1.授業で出てきた言葉遊びの分類

授業では、1多義、多義語、2同形異義、同形異義語、3類音、類音語について学んだわけだが、授業で出てきた言葉遊びもこれらのグループに分けることができる。(なお、言葉遊びのそれぞれのナンバリングは、プリントの番号に従っている。1.Histoires drôlesに出てきたものは1-1、1-2…、2.Devinettesに出てきたものは2-1、2-2…というように表記している。)

(1)多義、多義語

一つの語には複数の意味があり、それらを利用したのが多義、多義語による言葉遊びである。そのようなものとしては1-1のcommander命令する/注文する、1-2のfaire作る(建築する)/書く、1-3のpeindre絵を描く/ペンキを塗る、1-4のperdre見失う/亡くす、4-4のverser注ぐ/払い込む、4-5のsiffler口笛を吹く/一杯で飲み干す、などが挙げられる。

これらの言葉遊びでは使われている語が全て動詞、しかも他動詞であることに注目したい。多義、多義語は名詞や形容詞にも数多くあるのだが、動詞の意味の違いが話を面白くするのに最も効果的なのであろう。とりわけ他動詞の場合は、必ず目的語があるために、一つのものに対して全く別の動作を施すことに面白さを見出すことができるのである。最も顕著な例は1-4であり、夫を「見失う」のと「亡くす」のとでは意味が大きく異なり、その後の「喪服売り場」というオチに繋がるのである。

多義、多義語による言葉遊びは、動詞を用いて作るのが最も効果的なのである。

(2)同形異義、同形異義語

語には形(綴りや発音)が同じで意味が異なるものが数多くあり、それを利用したのが同形異義、同形異義語による言葉遊びである。この同形異義、同形異義語についてはさらに細かく1.同綴同音語、2.同音異綴語、3.同綴異音語の3つのグループに分類することができる。

①同綴同音語

綴り字も発音も同じだが意味の異なるものを用いたのが、同綴同音語の言葉遊びである。そのようなものとしては1-5のvert緑色の/熟していない、1-6のcancer蟹座/癌、1-7のcouronne歯冠/花輪、1-8のdernier最新の/ビリの、1-9のintérêt興味/利息、1-10のlivreポンド/500g、2-1のdecouvrir発見する/服を剥ぐ、2-2のpousser押す/生えるとtirer引く/馬力がある、4-1のcampagne田舎/戦闘、4-2のpostillons御者/唾、4-3のpopulaire人気のある/通俗語の、4-4のliquide液体/現金、などが挙げられる。

これらの言葉遊びでは、名詞、形容詞、動詞とさまざまな品詞の語が使われている。同綴同音語は、読む段階でも話す段階でも区別がつかない。そのような語について、異なる意味を当てはめることによって、いかに話を面白くするかが重要なところである。最も秀逸なものは1-9であろう。男というものは銀行の口座のようなものであって、たくさんお金を持っていなければ利息がつかないように興味が湧かないというのである。男と興味、銀行の口座と利息という意味の繋がりを、お金という共通事項でまとめている。日本語におけるなぞかけと同じ構造であり、なおかつ人間関係についてのシニカルに述べている。言葉遊びはこのように、少し皮肉や揶揄が込められているような、ブラックユーモアがある方が面白い場合が多いのではないだろうか。

また、上記の例は全て単独の語であったが、複数の語を合わせた連語にも同綴同音で異なる意味を持つものがある。そのような連語を用いた言葉遊びとしては、1-15のsous ordre命令に従う/部下、1-18のau frais冷たい所に/~のツケで、などが挙げられる。ordreもfraisも共に異なる意味を持っている。それは見方によっては多義ととることもでき、多義と同形異義の違いは非常に微妙なものがあるが、いずれにせよそれらは同じ前置詞がついても異なる意味を持つのである。同綴同音の連語で異なる意味があるものでも、言葉遊びを作ることができるのである。

綴り字も発音も同じだが意味の異なる同綴同音は、完全な同形異義である。そのため、話す段階だけでなく読む段階においても、話に面白さを見出すことができる。同綴同音、同綴同音語による言葉遊びは、同形異義の中でも最も完成度が高いということができるだろう。

②同音異綴語

発音は同じだが綴り字が異なるものが同音異綴、同音異綴語である。これは同形異義の中で最も数が多く、授業でも非常に多数の同音異綴語を見てきた。しかし言葉遊びとしての数は思いのほか少なかった。同音異綴は、綴り字が異なるために読む段階では面白さを含ませることができない。そのためもっぱら聞き間違い、言い間違いといった話す段階での勘違いに面白さを見出すのである。そのようなものとしては、1-17のamende罰金/amandeアーモンド、2-5のcane雌のアヒル/canne杖、などが挙げられる。

また、上記の例は単独の語同士の同音異綴であったが、異なる綴りの複数の語だが発音が同じという分節による同音異綴もある。綴りの異なる語を複数用いているために、当然意味も異なってくるわけだが、こちらの場合はむしろいかに異なる分節で同じ発音のものを作るかということに力点が置かれている。そのようなものとしては2-3のcar il est assis sans maîtreなぜならばそれ(犬)は主人がいなくても座っているから/car il est à six cent mètreなぜならばそれ(犬)は600mの高さがあるから、2-4のla palourde ハマグリ/la pas lourde重くない、2-6のla pie romaneロマネスクのカササギ/ la pyromane放火魔、などが挙げられる。特に2-3はどちらも意味の通る正しい文章になっている点で完成度が高いといえるだろう。

発音は同じだが綴り字が異なる同音異綴語そのものは非常に数多くあるが、それを用いて言葉遊びを作るのはなかなか難しいことなのかもしれない。同音異綴の言葉遊びはむしろ分節によるものの方に、その真髄を見出すことができるだろう。

③同綴異音語

綴り字は同じだが発音が異なるものが同綴異音、同綴異音語である。ちょうど同音異綴、同音異綴語と逆の現象が起きている。これは例外的で珍しいものであり、数は非常に少ない。授業でも僅か10の例を見ただけであった。そして同綴異音、同綴異音語による言葉遊びは、授業では一つも出てこなかった。もともとの数が少ないために、言葉遊びを作るのが難しいということもあるだろう。また同綴異音は、発音が異なるために話す段階では面白さを含ませることができない。読む段階での意味の違いに面白さを見出すのである。言葉遊びというものはやはり口承で作られ、伝えられるものの方が多く、文字によって作られ、伝えられるものは少ないのではないだろうか。そのために、同綴異音、同綴異音語による言葉遊びというのは数が少ないのだと考えられる。

しかしそのような中でも、同綴異音、同綴異音語による言葉遊びを作る可能性は残されているだろう。少ない数の語でいかに言葉遊びを作るかという試みは、フランス語を学ぶ上で大いに訓練になるだろう。また、文字に面白さを含ませるということから、カリグラフィーなどの文字による文化に応用することもできるのではないだろうか。

綴り字は同じだが発音が異なる同綴異音、同綴異音語は、もともとの数が少ないために、また文字に面白さを含ませ、文字によって伝えるものであるために、言葉遊びを作るのは難しい。しかしそれだからこそ、同綴異音、同綴異音語による言葉遊びを作ることには価値があるといえるのではないだろうか。

(3)類音、類音語

語の綴りや発音が似ているものが類音、類音語である。似ているだけで決して同じではなく間違っているために、言い間違い、聞き間違い、書き間違い、読み間違いとあらゆる間違いを引き起こしうる。そのような間違いに面白さを含ませるのが、類音、類音語による言葉遊びである。そのようなものとしては、3-1のdeable bêteいたずらっ子/deabète糖尿病、3-2のcow-boyカウボーイ/ cobayeモルモット、などが挙げられる。特に優れているのは3-1であろう。子供が砂糖を摂り過ぎるといたずらっ子になるというのは、どこか見当違いのように思われる。太るからいたずらっ子になるのだろうかなどと考えていると、実はいたずらっ子deable bêteではなく糖尿病deabèteであるということに気付き、そして納得するのである。

言い間違い、聞き間違い、書き間違い、読み間違いといった間違いは、日常でしばしば起こることである。類音、類音語による言葉遊びは、そのような間違いを上手く利用したものであり、さまざまなものを作ることができるであろう。

(4)その他

その他のものとして、熟語として特定の意味を持つものを、語の意味そのままに直訳したことによる違いを用いた言葉遊びというものが挙げられる。これは結局のところ語の多義性を利用したものなのであるが、その他のものとして別に分類しておく。そのようなものとしては1-11のavoir des fourmis(熟語)足がしびれてちくちくする/(直訳)蟻を持っている、1-12のavoir le cafard(熟語)落ち込んでいる/(直訳)ゴキブリを持っている、1-13のfièvre de cheval(熟語)高熱/(直訳)馬の熱、1-14のfaire la planche(熟語)浮き身をする/(直訳)板になる、1-16のA tes souhaits!(熟語)くしゃみをした時に言う「望みが叶いますように」(英語のGod bless you!と同じ)/(直訳)望みが本当に叶いますように、などが挙げられる。特に秀逸なのは1-12であろう。他の熟語は直訳との繋がりがある程度見えてくるのであるが、「ゴキブリを持っている」から「落ち込んでいる」という発想はなかなか思いつかない。熟語と直訳の違いに面白さを含める言葉遊びを作る場合には、両者の意味ができるだけかけ離れているものを選ぶ方がよいのではないだろうか。

またこの種類の言葉遊びは、フランス語を母国語とする者の方がより効果を発揮する。熟語を母国語として無意識の中で知り、日常的に使うからこそ直訳との意味の違いに面白さを見出すことができるのであって、外国語として意図的に熟語の意味を学ぶのではどうしてもその面白さが半減してしまうのではないだろうか。

一つのまとまりで特定の意味を持つ熟語と、それを構成しているそれぞれの語の意味を一つずつ当てはめる直訳との間の意味の違いに、面白さを見出す言葉遊びというものもあるのだ。

2.言葉遊びを作る試み

授業で出てきた言葉遊びを分類し、それぞれについて見てきたところで、実際に言葉遊びを作ってみることにする。先程の分類をそのまま適用する。

(1)多義、多義語

まずは多義、多義語による言葉遊びを作ることにする。形容詞と動詞とさまざまな品詞の多義語で作るのがよいであろう。

1.gris灰色(の)/ほろ酔いの

L’homme qui porte un complet gris est complètement gris.
(灰色の背広を着た男はすっかりほろ酔い機嫌である。)

形容詞の多義語で作ってみた。またcomplet「背広」とcomplètement「すっかり」の語も掛け言葉のようになっている。

2.repasser復習する/アイロンをかける

Elle a dû repasser repasser chez elle.
(彼女は家でアイロンのかけ方の復習をしなければならなかった。)

動詞の多義語で作ってみた。同じ語が連続しながらも意味は異なるという点に面白さがあるのではないだろうか。

多義、多義語による言葉遊びは語の意味の違いを上手く利用すると、面白さを生むことができるのである。

(2)同形異義、同形異義語

次に同形意義、同形意義語による言葉遊びを作ることにする。同形意義語には同綴同音語同音異綴語、同綴異音語の3種類があった。それぞれの特性を上手く活かした言葉遊びが作れるようにする。

①同綴同音語

まず同綴同音語による言葉遊びを作ることにする。同綴同音語は綴り字も発音も同じである。つまり全く同じ語ということになり、読む段階でも聞く段階でも区別がつかない。そのような特性を言葉遊びに上手く活かしたい。名詞同士の同綴同音語が多くなるだろうが、その他にも名詞と形容詞や名詞と動詞のようにさまざまな品詞の組み合わせによる同綴同音語の言葉遊びを作ってみたい。

1.bièreビール/棺

On a mis une bouteille de bière dans la bière.
(棺の中にビールを入れた)

故人の好きだったビールを棺の中に入れる場面であろうか。「棺の中のビール」で言葉遊びが作れるのである。

2.mine顔色/鉱山

Quand je suis allé à la mine, j’avais mauvaise mine.
(鉱山に行ったら、顔色が悪くなった。)

鉱山ではガスなどが充満していることがあるので、それによって顔色が悪くなるということはありえるだろう。実際に起こりそうな話で言葉遊びを作るとより真実味がある。

3.manche袖/取っ手

Il a retroussé ses manches et pris les manches de la marmite.
(彼は袖まくりをして鍋の取っ手を握った。)

鍋が重いので、力を込める意味で袖をまくるという場面もありえる。袖は普通二つあるので複数形になり、それに合わせて取っ手の方も複数形にする必要があるので、両手鍋ということになる。同綴同音語は、複数形や女性形も合わせて言葉遊びを作った方がより完成度が高くなる。この場合も袖と両手の両方とも複数形を作ることができるためにより秀逸なものになっているのである。

4.cousinいとこ/イエカ

Mon cousin a piqué par un cousin.
(私のいとこはイエカに刺された。)

これも実際に使われそうな文章である。いかに日常的な話で言葉遊びを作るかが重要なのである。あまり現実的でない話では、面白さも半減してしまうだろう。

5.avocat弁護士/アボカド

L’avocat aime l’avocat.
(その弁護士はアボカドが好きです。)

同綴同音語がaimeという語を挟む形になっている。余分な語を排除して、最低限必要な語だけで作った言葉遊びであり、究極の形であるといってもよい。最も完成度が高い言葉遊びである。

6.vase花瓶/泥

On verse de l’eau de la vase dans le vase.
(花瓶に泥水を注ぐ。)

花瓶と泥は水という語で繋ぐことができるが、実際に泥水を花瓶に注ぐという場面はあまり現実的なものとはいえない。完成度はいまひとつの言葉遊びになってしまった。

7.alerte警報/機敏な

Elle a donné l’alerte à l’oipion avec la action alerte.
(彼女は機敏な行動で世論に警報を発した。)

レイチェル・カーソンのような人物が、執筆や公演やデモなどさまざまな行動で世論に警報を発しているという場面であろう。今までは名詞同士の同綴同音語の言葉遊びであったが、これ以降は品詞の異なる語による同綴同音語の言葉遊びになる。ますは名詞と形容詞による同綴同音語の言葉遊びである。alerteで名詞の「警報」になるため、同綴同音語にするためには「機敏な」という語を女性形にしなければならない。そのため形容する名詞を女性名詞にする必要があり、mouvement「動き」(男性名詞)ではなくaction「行動」(女性名詞)にしたのである。当然ニュアンスも微妙に変わってくるのではあるが、形容詞の同綴同音語で言葉遊びを作る場合には、名詞の時以上に複数形や女性形に注意する必要がある。

8.vague波/曖昧な

Le contour de cette vague est très vague.
(この波の輪郭線は非常に曖昧である。)

絵画の批評に出てきそうな場面である。名詞と形容詞による同綴同音語の言葉遊びをもう一つ作ってみた。こちらは末尾が「e」で終っているために、女性名詞を形容する場合も形が変わらないので、先ほどのものよりも言葉遊びを作るのは容易であろう。

9.cocher御者/印をつける

Le cocher doit cocher un nom sur une liste.
(御者は名簿の名前に印をつけなければならない。)

御者がパーティーなどに出席して名簿に印をつけている場面である。今度は名詞と動詞による同綴同音語の言葉遊びである。名詞の方の「御者」の末尾が「er」であるために、動詞は活用させずに不定形にしなければならない。そのため動詞の「印をつける」に準助動詞をつけた。動詞の不定形が同綴同音語である場合には、準助動詞や前置詞で繋ぐなどして、不定形を保たなければならない。そのため言葉遊びを作るのに工夫が必要である。

10.sourisハツカネズミ/微笑む(→sourire)

Je souris voyant les souris.
(私はハツカネズミを見て微笑む。)

可愛らしいハツカネズミを見ながら微笑んでいる場面である。名詞と動詞による同綴同音語の言葉遊びをもう一つ作ってみたのだが、今度は動詞を活用させた形が同綴同音語になっている。この場合は当然活用に合わせて主語を決めなければならない。直説法現在だけでなく、半過去、単純未来や条件法、接続法などさまざまな活用があるので、話の内容もそれに合わせなければならない。またこれ以外にも、過去分詞や現在分詞など分詞が同綴同音語である場合も考えられる。動詞の活用が同綴同音語の場合は、言葉遊びを作るのにより一層の工夫が必要になってくるのである。

同綴同音語による言葉遊びは、綴り字と発音の両方で面白さを含ませるように工夫しなければならない。名詞同士の組み合わせの場合は、複数形や女性形が揃うようにしなければならない。名詞と形容詞の組み合わせでも同じようにしなければならないが、そうなると言葉遊びを作るのは格段に難しくなる。名詞と動詞の組み合わせの場合は、動詞が不定形なのか、それとも何かの活用形なのかといった違いに対応しなければならず、言葉遊びを作るのはさらに難しくなる。

②同音異綴語

次に同音異綴語による言葉遊びを作ることにする。同音異綴語は、綴り字が違うために読む段階では面白さを含ませることができない。そのために、発音の段階で面白さを出せるようにする工夫が必要である。名詞同士の組み合わせの他に、人称代名詞の強勢形や疑問詞、前置詞といったさまざまな品詞の組み合わせの言葉遊びを考えてみたい。

1.coeur心/choeurコーラス曲

Ils ont chante un choeur de tout leur coeur.
(彼らは心からコーラス曲を歌った。)

いかにもありそうな場面である。「心」の方は「de tout son coeur」と熟語になっているために、聞き間違える可能性は低そうである。

2.conte物語/comte伯爵

C’est un conte d’un comte misérable.
(これはある惨めな伯爵の物語である。)

小説の書き出しなどでありそうな文章である。同音異綴語が前置詞を挟んでいる。声に出して読んだ時に、面白さが最大限発揮される言葉遊びである。言葉遊びでは、二つの問題とする語がなるべく近接していた方が、声に出して読んだ時に面白いのである。

3.maire市長/mer海

Le maire est allé à la mer.
(市長は海へ行った。)

短くて他愛もないような文章で言葉遊びを作るのは、技術のいることである。どちらも名詞ではあるが、「市長」のmaireは男性名詞であり、「海」のmerは女性名詞である。そのために定冠詞がleとlaと異なっているが、逆にこれが声に出して読んだ時に違いがはっきりして面白いのではないだろうか。冠詞が異なっているほうが、両者の意味の違いをより対比させることができるのである。

4.poisエンドウマメ/poids重さ

Posez le poids de ces pois.
(これらのエンドウマメの重さを量りなさい。)

料理をしている場面であろうか。「エンドウマメの重さ」で言葉遊びが作れるのである。

5.signe記号/cygneハクチョウ

Que veut dire ce signe de cygne?
(このハクチョウの記号は何を意味しているのだろうか?)

標識か看板などにハクチョウの記号が描かれている場面である。何かの象徴なのか、それとも暗号なのか。これも同音異綴語が前置詞を挟んでいて、近接している。声に出して読んだ時に面白さが発揮される言葉遊びである。

6.chêneコナラ/chaîne鎖

Il a attaché son chien à un arbre de chêne avec une chaîne.
(彼は自分の犬を鎖でコナラの木に繋いだ。)

これも実際にありそうな場面である。コナラの木と鎖をまとめる共通のものはやはり犬であろう。

7.toi「te」の強勢形/toit屋根

Ce n’est pas toi mais le toit qui me protage de la pluie.
(私を雨から守るのは君じゃなくて屋根なのである。)

強調構文を用いた言葉遊びである。自分を雨から守ってくれるのは、相合傘をする君ではなく屋根という実用的なものであるということで、ロマンスもなにも感じられない場面である。これには言葉遊びにとって大切な要素である、人間関係に対するシニカルな視線が含まれている。ややブラックな内容が、言葉遊びを面白いものにしているのだ。

8.oùどこ/ou~かまたは/août8月

alle-vous en août, à la mer ou à la montagne?
(8月どこに行く? 海?それとも山?)

同音異綴語を3つ用いた言葉遊びである。2つよりも3つ、さらに4つと数が多いほど言葉遊びは面白くなるのだが、その分作るのも難しくなる。

同音異綴語による言葉遊びは、いかに発音で面白さを出せるかということが問題となってくる。すなわちいかに韻を踏めるかということである。最も効果的なのは、同音異綴語同士をできるだけ近接させることである。あるいは同音異綴語の数を2つから3つ、さらに4つと増やすことも面白さを増大させる。発音に関してさまざまな工夫が必要なのである。

③同綴異音語

最後に同綴異音語による言葉遊びを作ることにする。同綴異音語は数そのものが少なく、授業の言葉遊びでは出てこなかったが、少ないものの中から言葉遊びを作ってみたい。綴り字が同じで発音が異なるのは、そのほとんどが動詞の活用語尾の発音例外に関わるものであった。動詞の他にも発音例外はいくつかあるので、それらを上手く活かしたい。

1.couvent覆う/修道院

Le troupeau des oiseaux couvent le couvent.
(鳥の大群が修道院を覆っている。)

ヒッチコックの映画『鳥』を連想させるような場面である。「覆っている」のcouventは「ent」を発音しないが、「修道院」のcouventは末尾の「t」だけを発音しないというように、綴り字は同じだが発音が異なっている。「覆っている」は動詞で語尾が「ent」であるために、主語は3人称複数形にする必要があるのだ。

2.fils息子/糸

Mon fils a coupé les fils téléphoniques.
(私の息子が電話線を切ってしまった。)

幼い息子が悪戯をしてしまったような場面であろうか。「息子」のflisは例外的に末尾の「s」を発音するが、「糸」のfilsの末尾の「s」は発音しない。また綴り字を同じにするために、「糸」は複数形にしなければならない。そのために複数形の語である「電話線」のles fils téléphoniquesにする必要があるのだ。

同綴異音語による言葉遊びは、綴り字を同じにしなければいけないため、名詞や形容詞の場合は複数形や女性形を揃えなければならない。また動詞の場合は、その活用を用いるように主語を設定しなければならない。もともとの数が少ない上に、さまざまな工夫が必要なために、作るのが非常に難しいが、作り甲斐のある言葉遊びでもある。

(3)類音、類音語

最後に類音、類音語による言葉遊びを作ることにする。類音語は、綴り字や発音が全く同じではないが非常に似ているために、言い間違い、聞き間違い、書き間違い、読み間違いとあらゆる間違いを引き起こしやすい。そのような間違いに面白さを含ませるよう工夫したい。

1.dénouement解決/dénuement貧困

Le gouvernement s’affronte aux problems du dénouement d’un dénuement.
(政府は貧困の解決という問題に取り組んでいる。)

現在の日本を表しているような場面である。類音語が前置詞を挟んで近接しているために、声に出して読んだ時に言い間違える可能性が非常に高い。それを見越して作られた言葉遊びである。

2.spacieux広い/spatial宇宙空間の

L’interieur de la navette spatiale était très spacieux.
(スペースシャトルの内部はとても広々としていた。)

宙飛行士の談話でありそうな場面である。これも言い間違いや聞き間違い、書き間違いや読み間違いを誘発することを目的にして作られた言葉遊びである。

類音語で言葉遊びを作る場合には、いかに間違いを誘発できるかが重要になってくる。間違いに面白さを含ませるために、早口言葉などに応用することができるのである。

結論

言葉遊びについての考察と実際に作るという試みを行ってきた。授業では言葉遊びについては細かく分類するということはなかったので、いくつかのグループに分類してみた。それぞれのグループによって、言葉遊びに含まれる面白さの性質に違いがあるということが分かった。多義、多義語による言葉遊びでは、意味の違いを上手く利用するために、動詞で作ると効果的であった。同形異義、同形異義語による言葉遊びは、さらに細かく同綴同音語、同音異綴語、同綴異音語の3つのグループに分かれていた。同綴同音語では綴り字の読む段階と発音の話す段階の両方で面白さが出るように、同音異綴語では発音の話す段階で面白さが出るように、同綴異音語では綴り字の読む段階で面白さが出るように、それぞれ工夫する必要があった。また綴り字や発音を同じにするために、名詞と形容詞では複数形や女性形を、動詞では活用を揃えなければならなかった。類音、類音語による言葉遊びでは、間違いを誘発する工夫が必要であった。いずれの言葉遊びでも、それぞれの語の特性を上手く活かしたものであった。

言葉遊びを分類した後で、実際に作るという試みを行ったのだが、この作業は非常に困難であった。簡単に作れるものもあったが、たいていのものは試行錯誤を繰り返して作ったものであった。綴り字や発音が同じということを最も重視したために、文法的な間違いやニュアンスの問題などもありえる。しかしなんとか作った言葉遊びは、自分ではそれなりに面白さが出ていると自負している。

言葉遊びを自分で作るという試みは、フランス語を学ぶ上で大いに役に立った。語彙が増えるだけでなく、仏作文のよい練習になった。また綴り字を同じにするために名詞と形容詞では複数形や女性形を、動詞では活用を揃える必要があるために非常に苦労したが、そのような工夫をすることで文法の復習になった。試行錯誤を繰り返していけば、フランス語が身についてくるのではないだろうか。フランス語で言葉遊びを作るということは、フランス語を学ぶ上で非常に役に立つ重要なものであるということが実感できた。

参考文献

  • ピエール・ギロー 著、中村栄子 訳『言葉遊び』(文庫クセジュ626)白水社 1979年