平成11年
雨蛙窓の向こうで仰向けに
かぶと虫夢中で捕った少年期
紅のトマトは甘く果物に
夕立の吹き込む水の冷たさよ
真っ黒な腕に真っ赤な虫刺され
ミニトマト味も形も赤い巨峰
オクトーバー二月前の暑さかな
平成12年
蟬の声いつから君を好きだった
造られた風に揺らされ泣く風鈴
雷が空を破っておいたする
炎天のソフトクリーム土器のごと
ダダダダダ夕立はドラムにマシンガンに
雷のうねるベースに雨歌う
雷雨とはシンバル・ドラム自然のビート
雨粒は弾丸なりて撃たれた夏
飲まれたる麦茶の減りが温度計
注がれる昇る麦茶の温度計
あぶらみ太陽を通訳ジリジリジリ
枝豆の乗客食われ空の舟
枝豆の箱を開ければ翡翠の光
ハーモニカ吹くごとかじるとうもろこし
とうもろこしかじるごと吹くハーモニカ
風が降る雨が吹きおる夏嵐
蟬時雨感傷的なハーモニカ
扇風機ため息漏らしうなだれる
浴室のスタンドマイク夏の歌
一年を百個集めた箱を捨て
平成22年
便箋をひととき迷う冬将軍
平成24年
絶望が滴り落ちる冬の雨
冬衣モコモコブクブクボンレスハム
平成29年
梅雨入りに真夏日来るとつゆ知らず
着てく服半袖長袖迷う初夏
梅雨が来て洗濯物が乾かない
平成31年・令和元年
年賀状装い送るラブレター
初詣行く末占うコイントス
千代紙で手作り楽しポチ袋
書初めや実現なるか万年筆
三が日終わり悲しき初出勤
如月にチヨコレイトはもらえない
灰色の仕事始めに字消し買う
外套の丈も長くて初仕事
医者帰りおくすりもらい寒椿
北風や三尺三寸金定規
恵方向きくわえ煙草の恵方巻
冬至には出勤時間がまだ暗い
令和3年
おい、コロナ⁉そろそろ終息する頃な‼
赤い実を財宝のごとく見つけたり
尻尾「にゃあ」真ん丸瞳誰の猫
令和4年
家族の灯尊き賛美歌う「好き」
美しや千代紙の花瑠璃の蝶
RGBあたひも斑なき秋の空
ネジ回し師走の諏訪市せわしなし
ベランダにひも靴干して冬支度
日持ちするひも靴干物陽も弱し
令和5年
恵方巻セつブンイレブンいい気分
豆を撒き鬼男泣き恵方巻き
恵方巻黙して食すコロナ禍や
巫女に恋セツないきブン外の鬼
恵方巻未来を覗く遠眼鏡
お雛様簪ティアラお姫様
令和五年四月二十九日
昭和の日ご唱和ください「昔はな…」
令和五年五月五日に詠む二句
五月五日らしくあるべき子ども何処
鯉のぼり恋のボリューム第何巻?
都々逸
踏み潰されて除草剤漬け蟬と向日葵夏が逝く
令和五年十二月三十一日
もう詰んだ癸卯の年に希望の死
令和6年
二月十四日に詠む二句
バレンタインバレンとインクで愛を摺る
罪なキスカカオとおかか好きな蜜
西暦二〇二四年二月二十九日に詠む四句
出勤日一日増える二・二九
給料日一日遠のく二・二九
パサパサの心うるおうどしゃぶり哉
花粉舞い瞳うるうるうるう年
ゴールデンウィークポイントどっと混む
傘を破壊され、ずぶ濡れになって詠む一句
ムカつく哉クソガキのやうな暴風雨
八月最終日に詠む一句
うなだれて横に首振る扇風機