第3冊ノート・紙片(2001年10月~2002年11月24日)

2001年

CoyaNote2001042

○○高校はアメリカだ
そう ここはアメリカなんだ

ここでは自由を求めてやって来た亡命者達が
ひしめき合って暮らしている
ここではそれまでの過去や境遇など関係ない
すべてを捨てて一から始められる 認められる
実力があれば上の立場にいられる 何でもできる
だがそれは逆に言えば
実力だけがものを言う厳しい世界
力なき者 脱落者 負け犬には誰も見向きもしない
そういった敗者を助けるような義理や人情などない
他人にはけっして干渉しない 冷たい人々

だからこそ僕はここに来たはずだ
それまで生きてきた十五年間の中のいっさいの過去を捨て
何も持たずに来た
ここではもう僕の過去についてとやかく言う者はいない
ここではもう僕の境遇についてなじる者もいない
みにくい人間関係のしがらみにもまれなくてもいい
ただ必要なのは実力 実力だけだ
僕は負けない 絶対に上に行って
そして自由をつかむ
他人なんて蹴落としてでも
もう負け犬はごめんだ

○○高校の中でいる僕は
きっと本当の僕ではないだろう
本当の僕は
一体どこにいるのだろう

CoyaNote2001043

どんなふうに生きればいいんだい 僕は生きているかい
柔らかな心を持っていたって 鋳型にはめられてしまう

CoyaNote2001044

僕は気付いたら浴槽の中に入っていた。そしてそこではもう一人の僕が待っていた。

誰だ君は
――君だよ。さあ今から君の体の中に含まれている灰汁をあぶり出そう――
何だって。
――君は中学校にいた時のように多くのことに苦しみ悩み悲しみそして喜ぶことを忘れた。
あの頃のように積極的な行動をしなくなった。――
それは学校が忙しいから。
――ほら出た。それだよ、君を動かさない原因は。君は学校を言い訳にして何もやらないだけだよ。本当はもう何もかも忘れて何もやりたくないのではないかい。それを隠すために学校に行っているのだろう。――
違う。そんなんじゃない。
――何が違うって言うんだい。君の体の中に学校という汚れた灰汁がしみ込んでしまったのだ。今すぐゆでて全部取り出そう。――
やめろ。

もう一人の僕は浴槽に火を点けた。激しく煮えたぎる熱湯の中で、僕の体からは真っ黒い灰汁がどんどん出てきた。もう一人の僕はそれを丁寧にすくってはお椀の中に入れていく。そして全部取り終わった時、僕はもう一人の僕の手から灰汁の入ったお椀を奪った。そしてそれを飲んでしまった。

僕はまた何もやらない僕になった。

CoyaNote2001045

僕は決めなくてはいけない
あらゆる事を
一時間後の事を 明日の朝の事を 一週間後の事を 来月の事を
そして自分と自分の進む道の事を

CoyaNote2001046

成長するごとに僕は退化していく
体が大きくなるごとに心は縮んでいく
もう感情を揺るがすような絵を見ても何とも思わない
もう琴線に触れるようなメロディーを聴いても何とも動かない
もう魂の奥につき刺さるような言葉に逢っても何ともならない

CoyaNote2001047

決めた たくさんある選択肢(迷い)の中から
一つだけの事を決めた
迷いなんて振り払って
決めてそして実行した後に
あの嫌な気持ちが起こらなければ
きっとそれは成功する

CoyaNote2001048

何もかもを濡らしてしまった
しわの寄ってしまった紙は
もう二度とは元に戻らない
再び僕は後悔してしまう

CoyaNote2001049

何をやっているんだ 僕は
せっかくやろうとしていたことを
やらずに
それを台無しにしてしまう

CoyaNote2001050

自分の存在価値がますます分からなくなってきた
何のために自分はここにいるのだろうか
電車に揺られ睡魔に襲われながら
自分は一体何を見つけたというのだろうか
最高作だと自負して自信を持って乗り込んだ絵が
一瞬にしてマヌケなラクガキに変わった
あまりにもレベルが違いすぎる
きちんとした指導も受けないまま独学で描いた絵が
最大限やったはずの絵が
根本的に否定された
自分のあまりの力のなさに
ショックでその場に倒れてしまいそうだった
絵を否定されたことがそのまま自分を否定されたようだった

自分がますますみじめに思えてきた
何もできずただいきがっている自分を
今すぐに消し去りたかった
このまま絵を続けても
いやそもそも続けられるかどうかすら分からない
あまりのショックの大きさに
何も考えられなかった

何をすればいい どうすればいい
何のために生きればいい どう生きればいい
誰に教わればいい 誰を愛せばいい
頭の中をめぐる無限にも続く狂った問いかけに
答えなど出せず
何の思考もないまま
今日を生きる

CoyaNote2001051

万年筆のインクを黒から青にした
別にこれと言った意味はない
ただ今までのイメージを捨てたかった
黒の持つあの暗く否定的なイメージを捨てたかった
変化が欲しかった 自分を変えたかった
そこで青にした
青は確かに少し後ろ向きなイメージもある
しかし海のように空のようにどこまでも澄んでいる
金のように輝くわけでもなくかと言って黒のようによどむわけもない
いつまでも澄んでいる
この青のようにいつまでも澄んでいたい
決して輝くことなく決してよどむでもない
始めから終わりまで同じでありたい
そう思っていた

CoyaNote2001052

まるで雨は僕を拒むかのように降り続けた
僕はそれに立ち向かうかのように進んだ
だがそこには何も収穫はなかった
吐き出す白い息は何を意味していたのだろう
濡れた軀はすぐに乾いた

CoyaNote2001053

意地やプライドならいくらでも捨てられる
でも夢だけはどうしても手離せない

CoyaNote2001054

生きる 生きる

2002年

CoyaNote2002002

世界はどうせ汚れているんだ
俺もアンタも神さえも

CoyaNote2002003

ほんの少しの喜びに幸せを見出せるだろうか
ほんの少しの悲しみが幸せを壊してしまうだろうか
ほんの少しの喜びで幸せが満たせるだろうか

CoyaNote2002004

まったくと言っていいほどこのノートを開かなくなった。字さえ間違えるようになった。おそらく二〇〇二年になってからは一度も開いて、何か書こうとさえしなかったのではないか。あまりにも忙しすぎた。時間は意味を持たずたれ流すように過ぎていき、それに乗り遅れたようで、何もしないままとんでもない所にまで来てしまった。

高校二年生になってしまった。世間でよく言う高二、十七歳、何でもできる時間。でもそんなものとは一切無関係である。変わらずに電車に乗ってきつい授業を受けるだけの毎日、そんな絶対的な時間など過ごすことなく一年間はきっと終るのだろう。ああ空しい。なんと空しいことか。変化を求めようにも、意識を改革しようにも、きっかけが本当に何もなくて、どうにもならない。

グチをこぼしても仕方ないだろう。そんな生活の中からでも、少しでも何かを見つけて、何かをしなくてはいけないのだ。まず、部活を本格的に再開した。復帰第一作は自画像を描こうと思う。あの、どうしようもないくらいに暴走していた中三の秋以来、約一年半ぶりの自画像である。まして、感情画でなく写実で描くのだからかなりの進歩であろう。

次に、第二詩集を出版しようと思う。これも中三の夏以来だからかなり久しぶりだ。あの時からもう詩らしいものは書いてないが、過去の古いフィルムを現像してプリントしてみるのもいいだろう。題名のない、本当に断片的な一行二行ぐらいのものは、無題とするか、あるいは「魂の叫び」とでもするか。おそらく前者にするだろう。あの時ならそうしていたかもしれないが、今では後者にするなどとてもできない。詩集の名前は、おそらく詩の中で一番多く出てくる「現実」だろう。今度はちゃんとレタリングして、装丁もちゃんとすると、進歩が出るだろうし、何より誤植をなくす。

そして、もしかしたら歌を創るかもしれない。カセットに鼻歌のように断片的に録音した歌詞とメロディーがたまりにたまって、書き出しただけででも軽く五十曲はこえる。なんとか歌い出し、中、そしてサビのフレーズとその他の歌詞とできれば編曲もしたい。おそらく無理だろうが。

と、見つけてみるとやることは結構あるものだ。何事も前向きに考えることがよい。

九時になれない壁掛け時計

この白い壁に掛けてある時計は
いつまでも九時になれないでいる
八時四十五分四十五秒から
秒針がいくら進もうとしても
まるで神の見えざる手によって
押さえつけられているかのように
前に行けない
いつまでもそこで停滞している
九時になれない 九時になりたくない
九時になってしまったなら
   宿題を始めなくてはならない
   風呂に入らなくてはならない
   ドラマが始まってしまう 見なくては
   今日という日が残り三時間になってしまう
   小学生なら寝なくてはならない大人の時間
予定通りに生きなくてはならない
辛い生活を送らなければならない
もう夜も更けてしまうと
なんとも憂鬱な時間
いやだいやだと嘆いていたら
神が秒針を押さえつけてしまった
九時になれない壁掛け時計を見ると
あの嫌な気持ちがやって来ない

しかし実際にはただの電池切れなだけ
予定通りに作られた単三乾電池たった一本で
神も何もなくなり
またいつものように憂鬱な時を刻み続ける

CoyaNote2002005

自分の歩いてきた軌跡をふり返ってみると
あまりにも重いものを背負ってきたことに気が付く
あまりにも重く痛く苦しいもので
今の自分ではとても抱えきれないほどだ
こんなにも大変な日々を これから生きていくには
送らなければならないのか
こんな日々を続けるなら
まだ勉強をする方が楽かもしれない
本当だろうか

CoyaNote2002006

休日になると本当に何もしない
ただボーッとして一日を過ごす
当然勉強などしないし
外出やその他の活動など
全くしない
勉強をしないのなら何か他のことをし
何か他のことをしないなら勉強をする
どちらもやらずただ一日を無駄に過ごす
いつもいつも自分に嫌気がさしてくる
とにかく一番頭の中にあるのが
疲れを次の日に残さない
平日の疲れをとる
というとんでもなく消極的なものなのだ
どうしようもない
どうにもならない

CoyaNote2002007

夢の反対は現実です やりたいことと生計を立てることは違います
生業の反対は趣味です 好きなことと生計を立てることも違います
僕が絵を描くことは趣味です 夢ではありません

CoyaNote2002008

何かになりたい夢を売って 生業を買いました
そしてお釣りとして趣味をもらいました
趣味は夢から生業を引いたものです
夢の一部です
趣味は大切ですよ

CoyaNote2002009

高二です 中だるみの年です
ここで気を抜くととんでもないことになります
気をつけましょうね

CoyaNote2002010

もう何を書いても嘘らしく思えてしまう
何を書いても現実に汚されてしまう
夢はもうない 何もない
あるのは何だ

CoyaNote2002011

明らかにあの頃の自分の方がよかった
今よりも夢を持ち 毎日を活動的に生きて
今の自分と較べるとまるで別人のようだ
退化してしまったのか

CoyaNote2002012

何かをやろうと思ってもあれこれと昔のことを考えるばかりで
現実や今の自分のみじめな姿に空しくなって
結局何もやらないのなら
最初から何かやろうともせずに
ずっと消極的を続ける方が
いいのではないだろうか

CoyaNote2002013

夢って何 現実って何
どうしてこんなにも空しいの
やりたいことはあるのに
どうしてやろうとしないの

CoyaNote2002014

(ゆめ)現実(げんじつ)

野良猫のリアリティー

昨日飼い猫のミィが
外のベッドで鳴いているのを見た
顔見知りの人間だから
安心して寝たまま無防備な姿勢で
甘えるように鳴いていた
しかしその時の猫は
家の中で同じ状態においてでも
絶対に見せないリアリティーを持っていた
ただ外にいるだけなのに
乾いて薄くなっているピンクの鼻
少しひび割れている肉球
汚れた白い毛
そして外のためあまり響かない鳴き声
なにもかもがリアルだった
そこに命というものが確かにあると実感した
家の中では猫はまるでぬいぐるみのように
可愛さだけを持って鳴いているだけだ
時にはそれが命を持っていることを忘れてしまうような冷たさ
何もしなくてもエサがもらえ 寝られ 遊べるという安心感
しかし野良猫には 外にいる猫には
いつ敵が襲ってくるか分からない危機感が
猫にリアリティーを与える
猫は一匹の確かな獣になる
あの時のミィには
今はたとえ飼い猫であっても
元々は拾われた猫であり
野良猫のリアリティーが
ひっそりとだが鮮やかに
表れていた

大人になるということ

酒を飲んで顔を真っ赤にして
どうでもいいことに下品な大声を出して笑い
人の話をろくに聞かずに自分の言いたいことばかり言って
何かあるとすぐに怒鳴って
子供に何が分かると言って
また酒を飲んで
お前は違う人間だ 冷酷な○○高校人間だ
俺達は心優しい人間だ
まるで○○高校に通っていることを悪く思い
人を差別し
罵声をあびせ 叫び わめいて 臭い息を吐き
燃料が切れると
鼾をかいて眠る
大人とはそういうものなのだろうか
翌日そのことを言おうものなら
また怒り出す
大人になるということは
酒を飲んで暴れることなのか

CoyaNote2002015

それなりの努力はそれなりの結果を生む
才能も素質も何もない人間は
もういくらやってもそれを持つ者には
追いつけない
でも それなりに努力すれば それなりに結果は出る
決して完璧でも高度なものでもない
彼らとは較べようもないほどに
小さくてくだらない
平凡でそれなりの努力と結果

徹底討論 僕がこれから描く詩画について

はい こんにちは。これから僕がこれから描く詩画について熱く語ってもらおうと思います。

まずは僕から。僕は今、油絵で自画像を描いていて、火曜日にも完成しそうなんだ。そしてその次の作品は、詩画にしようと思うんだ。詩を創って、それについての絵を描く。どうだろう。これならたくさん作品が創れるし、見る人の受けもいいと思うんだよ。

ふん・見る人の受けをねらうなんて、最低だな。何のために絵を描くのかさえ分からない人間が、絵について言う資格なんてないよ。
なんだって。

まあまあ、そう興奮しないで。詩画というのはなかなかいいと思うよ。で、どんな詩画にするんだい。

うん、詩は、悩んでいる中学三年生やその他の人への励ましのメッセージみたいな明るいもので、絵というよりも、何度か描いているイラストみたいなふうなものにしたい。

へ、悩める中三へのメッセージだと。笑わせんな。自分の悩みも解決できていないような愚か者が、他の人の悩みへのメッセージなんて書けるはずないだろ。

なんだって。そりゃ、僕は確かにまだ解決していない悩みはあるよ。でも、その悩みは、中三の時に抱く悩みとは別のものだと思うんだよ。僕はなんとか、中三の時の悩みを乗り越えられたんだ。その時得たものを、同じ中三の人に分けてあげたいんだ。

―諸事情により、討論は中止となりました―

美術室に来る囚人

重い荷物を背負わされ
遠くへ行くこともできず
生きる気力もなくし
疲れ果てた男が
今日も足を引きずりながら
うなだれて美術室へ来る
中へ入り扉をすぐに閉めて
他の人間との接触をなくす

部屋の真ん中へ来ると男はまず
夢を見せないで現実だけを見るように巻かれた
目隠しの眼鏡を外す
次に時間から逃げられないように腕にはめられた
時計の手錠も外す
そして社会の鎖につながれた
つめえりの首輪を強引に外し
一気に囚人用の学生服も脱ぎ捨てて
男はほんの少しの間だけ自由になる
あらゆる束縛を無理矢理外した時に流れ出た
血の絵の具を筆でぬぐって
男は美術室で絵を描く
男に美術や絵について教える者は誰もいなくて
たった独りで絵を描く

男が今まで信じていたものは全て壊れた
残っているのは
いきがっていたあの頃を悔やみ恥じている
才能も実力もなく 何もできない
ただの男
もう男は絵について深く考えることはしない
絵を描きながら思想にふけることもしない
ただ与えられたほんの少しの自由な時間に
黙々と絵を描くだけ
そして描きながら自分に嫌気がさして
何度も絵を描くのをやめようと思ってしまう

一応絵は完成する
完成というよりも
いつまでもとめどなく描き続けてしまう自分に
終止符を打つ
そうしないと男はいつまでも一枚の絵を描き終えられない
昔考えたくだらないサインをして
その絵はもう終わり
完成した絵について感想を述べることもなく
壁にまた一つ絵を掛けて
手についた血の絵の具をよく洗い
再び全ての束縛を身につけて
男は部屋をあとにする

階段を降りながら男は
その日が終わり休めることと
また明日から始まる疲れる日々に
一喜一憂し
自転車に乗って帰る
自由に絵が描ける時間が
あまりにも少ないことに
抵抗することも
何もできないまま
男は今日もとりあえず
眠る

CoyaNote2002016

第二詩集がついに完成した。題名は「現実」

今回は、紙を上質紙にしたので。非常に綺麗である。そして一番の進歩は表紙である。うすっぺらな色画用紙を貼り合わせた前回とは異なり、ケント紙にした。弾力があり、ほどよい厚さなので、表紙には最適である。さらに、題字をレタリングした。それだけで、本物の詩集のような感じが出た。なんとイラストも描いた。三人の少年がいる。モデルは僕である。真ん中の男の子を一番大きく描き、制服を着せて、下にシャープペンシルを置いて「中学生」とした。左には、二中のジャージを着た男の子がいて、下に筆があり、「絵描き」とした。中学生の頃は今のスモッ着を持っていなくて、ジャージをつなぎのような感覚で着ていたので、こうした。右には、私服の少年がいて、下に万年筆で「詩人」とした。自分の私服を描くのが意外にも難しかった。

「現実」は、詩の内容も装丁も、かなり完成度が高い。残念なことに、誤植がいくつもある。しかし、中学生の自分を総括し、区切りをつける大切なものとなった。
今はもう高校二年生になってしまった。詩らしいものは中学卒業以来ほとんど創っていない。過去に満足することなく、今を考えなくてはならないのだが。

CoyaNote2002017

髪を思い切り短くして
新しい靴を買って
外見が変われば
きっと中身も変われるはず

2002 5 19

散髪に行くのは解決になるのか

眉をひそめると
そこに痛みが走る
首筋には血の塊が
全てこの長くてうっとうしい髪のせいだと
散髪に行った

CoyaNote2002018

たとえそれが成功するかどうか分からなくても
成功するように最大限の努力はすべし

CoyaNote2002020

君はあの屈辱に耐えられたかい

CoyaNote2002021

男というものは、どっしりと構えなきゃいけないんだよ

CoyaNote2002022

とてつもなくでかい世界へ飛び込もうぜ
いつか絶対に都会に出ようぜ
こんな片田舎に閉じこもっていては
駄目になってしまう
人の波を泳ぎ 地下鉄の動脈の中を流れ
肺に汚れきった排気ガスを吸い込み
アスファルトに照り返す熱に焦がされて
さあ行こう

CoyaNote2002023

大人になれば絶対に越えられる境界線を
今すぐに飛ばなければ意味がない
きっと大人になってしまったらもう
その境界線自体がなくなっているかもしれない

CoyaNote2002024

誰にも理解されない言葉を喋る男
               プラス思考でCoya
自分では最高の詩が書けたと思っていても
それは独り善がりでしかないのだ
意味を持たない言葉の羅列が
人の心に感動を与えることなどない
それに加えてあの場違いなイラスト
もう笑い物以外のなにものでもない
今すぐにナイフでズタズタに切り裂いてしまえ
イラストの中の人物が笑ってばかりいるように
悲しみさえもなく

CoyaNote2002025

鏡の中の自分に乾杯
悲しみを分ち合う水割りは
僕の汗か涙か
グラスを投げつけて鏡を砕いても
その破片の区別ができるように
悩みをうやむやにしても
消えることはない

CoyaNote2002026

雨が降る 風が吹く 雷が鳴る
この世は全て あらかじめ決められている

CoyaNote2002027

夢は見るものじゃない
まして叶えるものでもない
夢は売るものだ
高校入試の「あなたの夢は何ですか」
の質問に答えるためだけに必要で
高校生になったら
さっさと売り払ってしまいましょう
その夢がとても甘くて現実離れしていて
くだらなくて立派なほど高く売れますよ
売ったお金で今度は現実を買いなさい
その現実を一生過ごすのですよ
現実は返品できませんし夢は質流れ品になってしまいます
あなたの夢は質屋のショーウィンドウで
どこかの珍品好きかお金持ちに
買われてコレクションされているのです

CoyaNote2002028

夢を見るのはガキの頃まで
夢を捨てられた奴だけが大人になれる
捨てきれずいつまでも夢を見ているバカは
半端者とののしられて
生きていくしかない

CoyaNote2002029

砂粒ほどの大きさにちぎられた消しゴムが
どこからともなく投げられて
コツンと頭に当たる
すぐに振り返ってもそれらしい人物はいない

君は消しゴムで消してしまいたい存在なんだよ
消しゴムがちぎられて投げつけられる度に
君の輪郭は少しずつ消えているんだよ

奴らは全員消しゴムを持っている
もちろん数多くのカラーペンも修正液も
自分の手を汚すことなくキャップをとれば簡単に
どんな色でも塗れる
もし間違えたら消しゴムや修正液で直せばいい
そうやって他人を思うがままに操れる

だが君は 不器用な君は鉛筆一本しか持ってない
消しゴムも 着色する道具も何も持ってない
君は消された自分の輪郭を元のようには描けない
黒の濃淡に少しずつ支配されていき
やがては白黒の人生となる

君は夕暮れ時に生きることはできない
君は真昼と真夜中にしか生きられない
君は虹を渡れない

君はいつか消える

CoyaNote2002030

世間知らずのボウヤよ
一人で初めて喫茶店に入ったのはいいが
給仕がやって来ないことで
学生食堂のようにセルフサービスだと思って
でもおぼんがないと戸惑って
席の辺りを座ろうかどうかと迷っていると
後ろから突然やって来た若くてきれいな給仕のお姉さんに
「いらっしゃいませ、ご注文は何でしょうか。」
などと聞かれたものだから
どぎまぎしてしまいとっさに答えたが遅かった
立ったまま注文するような人間がいるだろうか
きっと裏でおもいっきり笑われているのだろう
注文してもなかなか品が来ない もしかしたら忘れられているのか
などとくだらない心配をし
いざその品が来ると 背中を丸めてぎこちなく
ボロボロこぼしながら 心臓を締めつけながら
やっとこさ食べて ここですぐに帰ってはだめだ
くつろごうと思っても何もすることがなく
震える手で伝票を持ち 会計を済ませようとする
なるべくならお釣りを出したくない
しかしどうしてもお札でしか払えず
お釣りをもらって早く帰ろうとしたら
百円割り引き券
またしても背中で声をかけられて
その紙切れを半ば強引に奪いとると
逃げるように店を出ていった
恥を知れ 恥ずかしがれ クソガキ
もっと社会や世間や常識を知らなければ
一生クソガキ ボウヤのままのアホ

CoyaNote2002031

誰かが落としていった小銭を
一つ一つ拾い集めていく人生なのかい
自分で獲得しようとせず
年間で数百万はするという他人の落とし金を
それだけを頼りに生計を立てていく
きっとこの現状を抜け出すことはないだろう
人間はみな一人では生きられないという言葉を
都合のいいように解釈しては
道徳の教科書にも載っている生き方を
身をもって経験しているのだと
まったくのいいわけをしている
他人の破片で生きていけば
そのうちに自分は消えてしまう

CoyaNote2002032

心臓が破れそうなほど部屋を冷やしてくれ
汗なんてかきたくないんだ
衣服が皮膚にベタッとくっつくのは嫌なんだ
とにかく早く クーラーをもっと強めて
夏なんか感じたくない
日焼けなんかしたくない
病人のようにやせ細って
そのままでいる

ドーナツを食べ皿を割る

カセットテープの片面が終わった瞬間の
再生ボタンが無情にもはね上がる音が嫌いなので
人生が途切れてしまうようなので
レコードばかり聴いていた
回転運動は誕生から逝去まで
止まることなく続いた

デジタル技術の革新は
すり切れることなく一生を過ごすことを
可能にした
さらに歴史の途中に介入したり
先に進んだり元に戻ったり
一年や二年とばしたり
そして順番をメチャクチャにし混沌をつくり出すことも
容易にできるようになった

体を傷つけることなく
痛みを感じることもなく
そしてもしも終焉を迎えたくなければ
電磁波の命令で何度でも同じ生涯を
繰り返せる

遠隔操作で暮らしていると
そのうちに終わることを忘れてしまう
いつでも頭出しができる
始まりだけが存在するような気がする
だが
音楽のように人生も必ず終わりがある
傷や痛みがなくても
その時になれば全てが静かになる

CoyaNote2002033

さよならは言わない
だってどこかでつながっているから
どうせこんなせまい街
偶然出会ってしまうこともあるだろう
思い出もいらない
きっとくだらないものしかないから
背負うだけで苦しい
写真なんてものも信じられない

心の中が空しくても 生きてはいける
支えてくれるのは過去のものばかりじゃない

どこに行くんだい ここにいようよ
無理して上を目指さなくても
変わりすぎだよ

CoyaNote2002034

日常と現実が連結された
準急列車がやってくる
乗り込めばいつもの場所へ
運ばれる
積み降ろしのように下車する

CoyaNote2002035

変わらなきゃいけない
変わってはいけない
大人になれた
大人になってしまった
一つを選べば
もう一つを捨てることになる
二つとも選べない
二つとも選ばない
一つを選ばなければ
もう一つを捨てることもない
勝ち続けてしまうと
負けを知らない
負け続けてしまうと
勝ちを知らない
引き分けを続ければ
勝ちも負けも知らずにすむ
右に進めば左には到着できない
左に進めば右には到着できない
真下にもぐればどこにも行けない

CoyaNote2002036

一方通行の直線道路
入り込んでしまった僕は
もう戻ることはできない

おっと後ろからトラックが
猛スピードで我が物顔でやって来た
まるで僕を轢き殺そうとしているみたいだ

逃げようとしても無駄だ
トラックは急激に僕に接近してくる
あぶない

ここはしっかりと止まって脇によけて
トラックに素直に抜かれてしまおう
そうすれば先頭に行くことはないが轢き殺されることもない

なにも勝つことだけが目標ではない
抜かれてもいい
生き残ることが大切だ

これから先もトラックが轢き殺しにきたら
おとなしく脇によけて抜かれよう
勝利をまっさきに捨てれば敗北を担がされることはない

おや今度はクラクションを鳴らされ罵声を浴びせられた
せいぜいほざかせておけばいい
喉がいずれつぶれるだろう

CoyaNote2002037

君はよく後ろを振り返る
もしかしたらあの場所に
誰か大切な人がいるかもしれないと
意味もなく振り返る
さり気なく振り返る
ぎこちなく振り返る
たいていそこにはエキストラしかいない
関係ない人はすぐに視界から消える
たまにそれらしい人がいるが
目の悪い君はその人の顔をよく見られない
そしてまたすぐにいなくなる

君がよく後ろを振り返るのは
きっと過去に未練があるからなんだよ
遠い昔に残してきたものの
面影を誰か持ってはいないかと
今になって探している
取り戻したいから振り返る

だがしかし過去は後ろにあるとは限らない
君のずっと先に
あるいは行ったこともない場所に
過去は意外な形で姿を現す
後ろばかり振り返っても
そう簡単には見つからない
たとえもし後ろを振り返って
過去の面影を見つけても
その時には方向感覚を失ってしまう

CoyaNote2002038

愛されることと愛することの間
愛になることはできますか
動作をするのではなく
変身したいのです
受け身であるのは恥ずかしく
主導権はなかなか握れません
他者との関係を保つのは難しいです
自分自身に魔法ならかけられます
愛されなくない愛したくない
愛になりたい

CoyaNote2002039

夏との闘いで重要なのは
勝つことよりも負けないこと
つまり引き分けという妥協
立ち上がった時に頭を締めつける
相手の先制攻撃
しかしめまいを抱えて
歩き出す
そしてそのまま決して止まらない
全身から流れ落ちる汗に
痛みを混ぜれば
さっきのミスは帳消しできる
時間切れになるまで
こちらが倒れずに
汗も止まらなければ
引き分けとなる

CoyaNote2002040

何度も何度も繰り返して叩き込まないと
僕の体はなかなか覚えてくれない
見終わった瞬間に
全てを忘れてしまう
やはり体のどこかを傷つけないと
覚えられないのか
痛みを伴う記憶は忘れることはない
だが決してそんなことはない
ナイフで手首を切れば痛いだけで
血が出て
悪くすると死んでしまう
幻影がささやく痛みを信じてはならない
覚えることに痛みなど必要ない
見て理解して覚えるしかない

CoyaNote2002041

事実というものは常に過去に依拠している
時間によって整備されて過去は事実となる
しかし事実の中に真実は存在しないこともある
時間は事実を与えてくれるが
それ以上のことはしない
事実が自分にとって正しくなければ真実ではない
腐り果てて木の枝から落ち
地面に叩きつけられて砕け散った果実ばかり集めても
果肉は食べられないし 甘い汁も吸えない
あるいはもぎとった果実が
毒入りかもしれない
食べて栄養をとならなければ
真実ではない
真実の摂り過ぎで太りたくない

CoyaNote2002042

誰にも告げずに
一人だけの秘密の小旅行
こっそりと前から計画していたようでもあり
まったくの思いつきのような気もする
とにかく電車に乗り込んだ
そして走り出した
いつもそこで降りる駅を
通り抜ける瞬間の前に
まるで行くことを断念させるかのように
長い停車 空白 沈黙
ありとあらゆる方法で下車を誘惑する
それを無視し強行突破する
あとはもうやたら早い
乗り換えも簡単にすませ
気付いたらもう終点 目的地
とても大きな街
踏み出すとよく見える
バス乗り場まで来た
しかし目当てのバスは廃線になっていた
いきなり交通手段を失ってしまう
仕方なく地図を頼りに歩く
ふと新しく開通した市内循環バスが見える
本数の少ないバスに乗る
電車のような座席が横向きのバス
激しい揺れ 整理券 ボタン
なにはともあれこれで目的地へ行ける
途中でバスは市役所や病院の中にも入り
客を乗せる
そしていよいよ次は目的地
ボタンを誰よりも早く押す
チャイムの音が車内に響く
そして軽やかに降りる
バスはそのまま走り去っていった
数十歩で看板に到着
矢印の先にはすでにその建物が目の前にある
閑静な住宅街にある小さな美術館
中に入り受付で入館料を払う
「高校生一枚」台詞は見事に決まった
あとはもうひたすら作品を鑑賞する
途中で椅子に座って少し休むが
何度も何度も同じ作品の前に立つ
ギリギリまで接近した後遠くに離れる
ため息をつきうなる
そうして次の作品へ行く
二階へ上がりガラスケースの中の展示物を
ガラスにへばりつくようにのぞき込む
二階にはかなり長い時間いた
一度下りたら二度と上がれないような気がした
それから再び一階をぐるりと回り
台帳に住所と名前を書いた
住所の字ばかり大きくなって名前がみじめなほど小さくなってしまった
感想帳にも何かしら書いたがまとまりのない文章
文字はにじみどうもうまくいかない
とりあえずここに来たことに一応の満足をして
歩いて帰った
夜のかなり遅くの帰宅となった
疲労が残りまるで今日あれほど遠くの街へ行ってきたのが
夢のようでもあった
そうして終わった夏の一人の秘密の小旅行

2002 8 27

CoyaNote2002043

部屋が明るくないと気分まで暗くなっちまうぜ
どこかから光を持って来い
少しぐらい寂しいほうが小さな幸せを見つけやすい
一人いないだけで時間の流れはゆるやかになる
上ばかり見ているとよく人とぶつかってしまう
後ろばかり振り返っていると汚い自分の足跡が見えてしまう
下ばかり見ていると安物の自分の靴が見えてしまう
前を見つめると現在と自分が同じ速さで歩き出す
目を閉じると何も見ずにすむ

CoyaNote2002044

この心の渇ききった獣に
感動など与えないで下さい
損をするだけですよ
何も感じない生物は
どんなものを見ても
どんなものを聴いても
涙一つ流しません
身震いもしません
ましてや衝撃など受けません
ただ映像を客観的に視覚が吸収し
音が鼓膜にぶつかるだけ
群れを嫌い孤立する男には
友情という水がなく
一方的に相手を陰湿に好きになる男には
愛情という肥料がなく
よってその心は成長せずに
もう感動することができなくなってしまったのです

CoyaNote2002045

くだらないことで悩んでるヒマなんてないんだ
みんな捨てちまえよ
チャンスを一つ捨てれば
後悔が得られるんだから
夢を一つ捨てれば
妥協を得られるんだから
どうせ大人になれば嫌が応でも持たなきゃならないのなら
今のうちに自分から積極的に取り込もう
心の中に後悔や妥協を貯蓄すると
いずれそれは未練へと醸造される
未練は心の中を食い尽くして
嘆き悲しませる原動力となる
捨てたチャンスや夢から
遠ざかるための燃料となる
目を閉じ 耳を塞ぎ 背を向けて
逃げるように歩く
チャンスや夢から最も遠い場所に
社会的地位があり 安定的成功があり
そこに辿り着けた者だけが大人となれる
誰よりも早く大人となりたいのなら
自分からチャンスや夢を捨て後悔や妥協を取り込み
未練へと醸造することだ
中学校を卒業して高校生となったらすぐに
そうすれば社会的地位が安定的成功が与えられ
半端者とののしられずにすむ
くだらないチャンスを生かそうとし夢追い人と称する姿が
どれだけみにくいだろう
無力による制限と絶望や失敗による貧窮に苦しむだけだ
さあ今すぐにチャンスを夢を
捨てろ

CoyaNote2002046

そこの夢見る少年よ
君の夢が絶対に叶わないことを
体感させてやるよ
ほら こうやって君の首を絞めるんだ
どうだ 苦しいだろう
息ができないだろう
もうすぐで生きていけなくなるだろう
ここで少し緩める
すると君は今までの苦しさを息と共に
吐き出す
激しく呼吸をする
もう二度とこんな苦しみを味わいたくないと思うようになる
ほら 君の夢は叶わない
今 君の首を絞めたのは
現実であり 社会である
奴らは突然にやってきて首を絞める
君は苦しくなり息ができなくなり
生きていけなくなる
そして少しだけ緩くなると
一気に全てのものを吐き出す
君が吐き出したものは
自己中心的な理屈であり
根拠のない自信であり
堅実になろうとしないための言い訳であり
甘い考えであり
そしてくだらない君の夢である
君は苦しくなったら
それらのものを全て吐き出してしまった
夢が叶う前に自分から捨ててしまった
苦しみに耐えられなかったんだよ
もう二度とこんなくだらない夢を見なくなるだろう
結局君の夢は叶わない
それまで 自分には才能があるとか
世間が見つけてないだけだとか
真面目な奴なんて馬鹿なだけだとか
夢があればどうにでもなるとか
そして将来は大物になるだとか
大口ばかり叩いていても
ちょっと苦しいことがあると
すぐに投げ出してしまう
君は真面目にならなくてもよくて
適当に過ごせるぬるま湯のような今の状況に
満足してしまっているだけなんだよ
面倒なことを避けているだけなんだよ
君の夢は少しの苦しみで捨てられる程度のものなんだよ
たとえ苦しくなって
息ができなくなって
生きていけなくなりそうになっても
絶対に吐き出さないような
固い意志などないだろう
それほどの夢でもないだろう
さあ今すぐ 現実や社会に首を絞められる前に
自分からそのくだらない夢を捨てろ
そうすれば苦しみは減る
息ができなくなることも
生きていいけなくなることもない
ただ真面目にならなくてはいけない
でもそれぐらいいいだろう
吐き出される前に
捨てろ

CoyaNote2002047

燃え上がる灯火を
吹き消して
一筋の煙が上昇線を描く
熱い夢の命が絶たれたあの瞬間の
コゲ臭い香りがする
また誰かの心に闇が生まれる
暗ければ何も見ずにすむ
聴覚や嗅覚を研ぎすまし
手さぐりで進む

CoyaNote2002048

○○高祭とかいうくだらない騒ぎの
パンフレットから新聞にいたるまでの
ありとあらゆるものをズタズタに
切り刻んでやった
こんなものに期待していた自分が
馬鹿だった
文化的な堅苦しいイメージの脱皮だと
文化的でなかったら文化祭ではないだろ
食べ物を売って遊びをするための
祭なのか
そこに美術部がすき入ることなど
できなかった
次々と通り過ぎていく人々
すぐ隣の部屋に強引に連れていかれる屈辱
やって来るのは老人か子供がまだ小さい家族
そして理解できない言葉に頭を悩ませ
お世辞だけの感想を書き残して
来なきゃよかったと後悔しながら帰る
マヌケなラクガキを見て
「君の絵はまったくダメだ」
と説教をしてくる○○中学美術部の先輩方
「この猫の絵はあんたの化身なんだ」
と言ってくるさすらいの絵描き
決してほかの店や催しには行かないような
若者だけを排したあらゆる人々が
美術室にやって来て
そしてすぐに去っていった
それが美術部の太高祭であった
他の人間のように
騒いで楽しむのではない
まるで隔離された場所から
遠眼鏡でのぞくような入り口
そのあまりにもみじめな文化祭に
ふさわしいやり方で
パンフレットも新聞も
すべて捨ててやった
それでもうお終い
サヨウナラ
ご苦労様ではありませんでした

定刻

決して光らず汚いだけの汗
外国人に道を尋ねられた
空き缶の山を更に高くしてみる
バスの料金はどこに払えばいいのか
鎖のような鍵を外し乗る自転車
灯火に照らされなければ何も見えない

CoyaNote2002049

うなだれて首を横に振っているのは
扇風機だけじゃない
僕もそうだ
いつも下ばかり見て
どんなことも断り 拒み 否定し
ため息をついている

CoyaNote2002050

迷っていれば
決めなくてすむ
決めてしまったらもう戻れない
決めてしまうのが怖いので
いつまでも迷っている

CoyaNote2002051

失敗が一番怖いんだ
一つの失敗が十の成功を
壊してしまう
成功することよりも失敗しないことだ

CoyaNote2002052

穏やかな時間の後は
いつも混沌とした深い渦に
落ちて巻き込まれる
その中でもがき苦しみ
なんとかはい出ると
何かを確かに失い
何かを秘かに得る

CoyaNote2002053

さよなら 十七歳の夏よ
惜しむヒマもないくらいに流れていく
燃えることも飛ぶこともできない
それでも一つか二つ思い出を残せたら
心のどこかに置けたらいつか少し休んでいるときに
頭の中をよぎるだろう
懐かしさに浸れるだろう

もう二度と戻ってこない
平等な時間に
数字的意味をもたせると
より寂しくなる
響きだけで
憧れの甘いにおいのする
特別な時間
何かすればよかったのか

夏が終わっても全てが終わるわけではない
明日からいきなり秋になるわけでもない
夏から秋に移る期間に
数字的意味をもたせると
寂しすぎる
耐えられるかわからない

それでも十七歳の夏は終わる
振り返らない
大切にもしない
小さな思い出が一つか二つだけ
あとは秋に進むだけ

CoyaNote2002054

真っ白な画用紙をまとめて
持ち帰って家で絵を描こうと思っても
実際に何も絵を描かなければ
全く意味がない
やる気や理屈ばかりいくらあっても
行動に移さなければ
口先だけの恥になってしまう
行動が第一であり結果である

CoyaNote2002055

ここは異常で狂った雄猿の集まる所
どの猿も馬鹿みたいにキーキーうるさく騒ぐ
黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ
全員今すぐに消えろ
猿はみんなズボンのスソをまくり上げて
毛深くて太くて汚いスネを見せている
首輪のように色とりどりのタオルを巻いている
はがれ落ちる皮のようにシャツを出している
そして日本人であることのアイデンティティーを捨てるように
髪を茶色や金に染めている
馬鹿な猿どもには
エサを与えるな
雌猿との接触も断ち切れ
そうすればあのクソザルは
いずれ死ぬ
みにくい死体となる時も
きっと騒ぐだろう
騒ぐな 黙れ
○○高校の最低下等クソザルども

CoyaNote2002056

誰もがみんな変わってしまう時期で
変わらないことを選んだ男
人生のある一瞬を切り取り
写真の中に焼き付けた
あの日の昔の自分と
現在を生きている姿が
少しも異なるもののない
顔も声も心も信念も
全てをまだ大切に持っている
成長していく中で
それまで持っていた物が
邪魔になり不要になって
捨ててしまった奴らとは違う

CoyaNote2002057

口先から出るばかりの理屈や言い訳が
自分をますます嫌いにさせる
何も行動ができずに
時間を捨てていく
二度と戻らない貴重な時間を

CoyaNote2002058

常識的に考えて一番な大切な自分を
あんな絵にしてしまったのだから
もう何を描いても
驚くようなことではない
どうせ世界は汚れているんだ
俺もアンタも
神さえも

CoyaNote2002060

誰かを好きになることはたくさんあるが
誰かに好かれることはあるだろうか
おそらく一度 あの時期にしかない
中学三年生の一年間
初めて女の子に好かれたと思う
当時一年生だった女の子達
僕にあいさつをしてくれた
先輩と呼んでくれた
突然廊下などで会うとびっくりしてくれた
目を合わせてくれた
持久走大会で応援してくれた
そして学生服のボタンをねだりに来てくれた
確実に好かれていた
そしてそんな女の子が僕も可愛いと思うようになり
好きになった

だが女の子は急激に成長する
一年半という歳月で女の子は
いろいろなものを知り経験し
そして次第に僕のことを
好きだもなんでもない
むしろ嫌いな存在になってしまった
それは仕方のないことだけれど
女の子のことが未だに好きな僕は
少し寂しい
でももうあきらめて忘れよう
いつまでも過去の女の子のことばかり考えていても
どうにもならない
さようなら あの女の子
そして全く新しい同い年の女の子を好きになり好かれたい

何のために絵を描くのか

かつて僕は自分の罪を償うために絵を描くと言った
僕は人を傷つけてしまい
そのことで後悔し悩み苛まれ
そして罪を背負いそれを償うことで
自分を納得させることにした
僕の描く作品は罪が形となって表現されたもので
芸術というものとは無関係であると思っていた

しかし環境の変化というものは
罪をなくしてくれた
そもそも僕は人を傷つけてなんかいなかった
僕が傷つけたと思って罪を償った人は
今では元気に回復して
まるで何もなかったかのようにいつものように
平然と生きている
僕にはまるで傷つけられたかのように
僕を騙して
そして僕との隔離に成功した
だからもう僕は罪を償うために絵を描かなくていい
作品は罪が形となって表現されたものでなくていい
そんな絵はもう描きたくない

だが罪や償いがなくなったら
僕は何のために絵を描くのか分からなくなってしまった
作品から罪がなくなると
そこに芸術が必要になってくる
僕は芸術と関係のある絵を描いたことがない
だから今になって芸術の意味が見つけられず
そして絵を描くことができなくなってしまった
何のために絵を描くのか

CoyaNote2002061

再び絵を描くことにした
いつもよりも今までの中で一番真剣に
絵と向き合う
才能のないことを言い訳にして逃げていた
正面から取り組むことを避け
歪んだものだけにしていた
そんな自分を改めて
真剣に

CoyaNote2002062

どこかでふんぎりをつける
言い訳をするのではない
諦めるのでもない
開き直るのですらない
妥協である
自分で心の中に納得を
強引に押しこめる

CoyaNote2002063

何のために絵を描くのかという悩みから
早く抜け出して
次の問いに行くことだな
絵を描くことに理由なんて求めてはいけない
もっと大切なのは
何を描くのか 人物画を描きたいのか 誰を描くのか
無数の迷いである
悩みから迷いへ
そして 答えのような光の彼方へ

CoyaNote2002064

僕は髪の長い女の子が好きだけど
今までずっと長かった髪を
ある日突然大胆に短く切った時の
そしてもっと可愛くなった時の
あの衝撃も好きだ
そしてその短くなった髪が
また少しずつ長くなっていくのも好きだ

CoyaNote2002065

描くかどうかを悩むのではなく
描いてしまったことを悩め

CoyaNote2002066

君が思うようなほど
現実は劇的ではない
とても淡白であっさりしているものだよ
何をやっても現実は水のようにただ流れるだけ
大丈夫さ 決して変化なんてないよ
だいたい君は劇的な変化を遂げられるほどの力もないじゃないか

それだけの才能

それだけの才能とたしなめられても
構わない
それだけの才能で勝負すればいい

CoyaNote2002067

さあどうする これでもう後戻りはできなくなったぞ
何言っているんだ 後戻りなんてするつもりないよ
おや いつになく強気じゃないか
強気じゃないと やっていけないんだよ

CoyaNote2002068

理屈ばかり出てくる
見栄を張ろうとする
逃げ道を作る
具体性に欠ける
場当たり的

CoyaNote2002069

今その絵を描くことに意味があるのかなんて
考えちゃいけない
描きたければ描けばいいし
空しければやめればいい
何も残らないだけだ

CoyaNote2002070

君には小品でちょうどいいよ
見栄を張ろうとして大作に手を出しても
きっと失敗するだろう
無理はするな
適切なものを選べ
小さな絵を細々と描くのが
君の状況にそっくりだろ
変化なんてないさ
いつもと同じで変わり映えのない日々

CoyaNote2002071

――それで、結局君は決めてしまったんだね。――
ああ、決めたさ。今度の高校芸術祭に、何を出展するのか。
――何を出展するんだい。――
「自画像」「女性像」「彼岸花」「苦い夏」の4点だよ。
――ふん、そんなもんか。どれもみんな小品で、地味でおもしろみや華やかさもないじゃないか。もっと大きな作品で、驚くようなものにしないと。――
最初はそうしようと思っていたさ。そのために大きなキャンバスを買ったりもした。でもよく考えてみろよ。残り一ヶ月でそんな大作を完成できると思うのかい。そんな時間はないし、だいたい実力がない人間が大作に挑んでも絶対失敗するし、意味がないよ。
――何言っているんだ。大きい作品じゃなきゃ見向きもされないことぐらい分かっているだろ。小さな作品を細々と描いたのでは、もうそれだけでダメだよ。大きな作品なら、それだけで見栄えがいいんだよ。――
見栄を張るために大作を描いても仕方ないだろ。そんな気持ちで大きなキャンバスに描いてしまったら、せっかくのキャンバスがもったいないだけだよ。今は小品をそれなりに描いて、そしてもっと大きくなったら大作に挑んでみるよ。
――ダメダメ、そんなの。今大作を描かなかったら、一生描けなくなってしまうぞ。今大作を描いて、見栄を張ることは絶対に大切だ。そのことできっと大きくなれる。――
もういいんだよ。下手に大作で見栄を張ろうとしても意味がないということにやっと気付いたんだ。小さくて、そして下手でもいいから、それなりにやってみようと。
――ふん、それがさんざん悩んだ末に辿り着いた答えかい。ずいぶんと平凡なものだな。――
いいよ、どうせ平凡だもの。
――平凡な人間が描いた、平凡な小品、誰も見ないな、そんなもの。――
いいんだよ、うるさい、黙れ。もう何も言うな。大作は描かない。小品で、平凡で、下手でいいんだ。
――それじゃ、何も変わらない。今のままでいいのかい。自分を変えたいのなら、多少強引な方がいいんだよ。――
変えたくなんかない。いつまでもこのままでいい。
下手くそ、やめちまえ

CoyaNote2002072

一日美術室に来なかっただけなのに
まるで数年ぶりのような気がする
時間の流れは不確かで
大切なもののために存在してはくれず
手放しでは無駄になるほどあふれる
必死の抵抗も空しく
何もかもを失ってしまった
ゼロからすら始められない
もはや前へは進めない
その場で永遠に
足踏みを続ける

CoyaNote2002073

忘れかけていた
ほとばしる熱い心を
少し取り戻せたような気がする
触れただけで火傷するような
危険なほど高揚していなくてもいい
冷めきっていなければいい
記憶をつなぎ止めておけるだけの
ぬくもりでいい

CoyaNote2002074

アカデミックに富み
なんとも立派で
格調高く
荘厳なほどだが
理解するには難しすぎる理論よりも
単純で
機械的で
亜流で
邪道だが
分かりやすい例え話のほうが
役に立つこともある
見かけはほとんど同じで
行きつく場所も似ているなら
どちらをとってもよい
理論と照合するか
例え話の一つに加わるか
そこに時間というものの
問題があれば
おのずと答えは
見えてくる

CoyaNote2002075

ふと騒がしい風景を見たら
僕には何もないということに
気付いてしまった
誇りとしていたものなど
他人の一言で
簡単に崩れ落ちて
もう足場を固める
根本的な基盤がない
いつも不安定で
つまづき
転び
地面を這いつくばらなければ
生きていけない
いつも濁っていて
汚くて
ぼやけて
輝くことができない
何の力もない
経験もない
才能もない
浅はかな欲望だけがある
僕から最後の支柱である
あれを取り除いたら
本当に何もなくなってしまう
あれだけは守ろうとしても
そのうち近い未来には
ついにあれも
失ってしまう
そして僕は無になる

CoyaNote2002076

キャラメルの空き箱を
屑籠へ投げて
見事に入ったら
いいことがあると信じてみる
値段の変動する雑誌を
その場で持っている小銭で
買おうとして
お金が足りない
残念である

CoyaNote2002077

例えばスポーツにおいて
選手として登録はされても
一度も試合に出ることはなく
ずっと補欠で
自分のチームに拍手と応援をするだけの日々
それはそのまま僕の人生にあてはまる
決して表舞台に出ることはない
裏方で存在を消しつつ
華やかに活躍する人を
ただじっと見るだけ
案外それも楽しいものだ
目立たないから
重い責任を背負うことも
大役を担うことも
貢献することも
何もしなくていい
ただそこにいることは確かで
自由に動き回りさえできる

CoyaNote2002078

鍵は侵入を阻み追い出すためにも カヤの外
  逃亡を防ぎ閉じ込めるためにも 幽閉牢屋
存在する
見方一つで全く逆になる
外か内か
上か下か

CoyaNote2002079

何もかもに興味がない
他人のしているあんなことなど
やりたくもない
見ているだけで嫌いになる
一生経験したくもない
とにかく華やかなもの
派手なものに
気が滅入る
心を沈まされる
ピンクやパープルが
吐き気を誘う

CoyaNote2002080

この辛いだけの日々の中で
それをやるしかないんだよ
乗り切るしかないんだよ
次なんてものはない
残されたものもない

CoyaNote2002081

走り出した体
足の接合部は擦り切れ
バネは伸びてしまい
燃料は底をつき
完全に疲弊している
それを無理矢理に動かす
前に進むにつれて
強力な圧力が
全身を押しつぶそうとする

CoyaNote2002082

辛く厳しい徴兵を終え
やっと釈放されたというのに
全く実感がない
たとえ今夜の安らかな眠りが保証されても
見えない圧力がとりついて
決して心からの憩いを得られない
一時的な休戦状態に
喜んでしまえば
やがて再開する日々に
疲弊してしまう

汚れた灰汁

今日もまた寝てしまうのかい それでいいのかい
ねえ あんたよ
倦怠感 何もやらずに 無駄に過ごして
嫌気がさす
今日もまた 変わり映えのない毎日の中
埋もれていくのか

一週間休まずに動いた
三日も戦った
敗北の事実が背中の骨を擦り減らす
負けたショックは精神的ダメージ
他の人間の援護はやたら疲れる

そしてやっとの休日のはずだった
だがそんなものも
全てつぶれてしまった
結局休めなかった

再びプログラムを巻き直して
一週間が始まる
だが休んでいない体には
決して新しい週だと思えない
先週の疲れを引きずったまま
残りの一週間 止まり木もないまま
動き続けなければならない

そして突然のマラソン
計画は混乱し
貯めておけなかった少ない燃料で
走らなければならない
重い靴に放熱しにくい長ズボン
そして何時間も着続けている下着
装備もままならないうちに
スタート

すぐに動きが鈍くなる
疲れが靴が長ズボンが下着が
足を押さえつけて
前へ進めない

だが止まるわけにはいかない
時間内に完走しなければ
もう一度走ることになってしまう
怖れだけが体を動かす
そしてギリギリ間に合った
体を冷やすためか
あるいはタンクに補給するためか
水を大量に飲む

疲れやむくみを含む体から
絞り出せるだけ絞った
汚れた灰汁のような汗が
全身から出てくる
しかしそれをぬぐうタオルすらない

疲れていようが眠かろうが
明日の準備をしなくてはならない
体を無理矢理に動かし
何とか終われば
すぐに眠りに落ち すぐに日が昇る

CoyaNote2002083

昔はよく作動していた体も
少し使わないともうダメ
錆ついてしまった
腕を回そうにも
足を上げようにも
つけ根が固すぎる
燃料タンクはとても小さくて
少し動いただけでバテてしまう
腕や足のバネは伸びきって
とても痛む
それでも走らなければならず
接合部が擦り減ってでも
燃料ポンプが破裂しても
止まることはできない
クールダウンもできずに
熱をためこめば
廃水が空気孔からあふれ出て
そしてあまりにも疲弊すると
ついには動きが止まってしまう
ほんの一瞬の充電で
また走る
きしむ体
押さえつけるような圧力
煙が出る

CoyaNote2002084

定刻通りの電車
吐き出された乗客達をかわし
乗り込む
座席はすでにいっぱい
いつものように立つ
吊り革をしっかりと掴む
左肩には時代遅れで
ボロボロのショルダーバッグ
右肩には原形をとどめず
擦り切れたトートバッグ
どちらも非常にみっともない代物
カラスのような学生服
丈の短いズボン
くだらない靴
そして気色悪い顔
この呼吸する生命体を
肝井男と称し
人々は遠ざけ
毛嫌いし
蔑み
消えてほしいと思っている
それでも肝井男は今日も
いつものように電車に乗る
背中を丸めて細い目で
うつむいて臭いため息をついて

ふと見ると肝井男のすぐ近くに
女子高生の二人組がいる
二人はこちらをじろじろと見ながら
くすくすと笑っている
肝井男は何とか無関心なように装うが
会話の声が聞こえてしまう
「あれ」と指し示され 人称され
ある種の物体として笑われる肝井男
駅で友達の女の子が乗ってくるが
その女の子と二人の間には
まるで邪魔な汚物のように肝井男が
立ちはだかっている
二人組はこちらへ来いと言うが
女の子はためらっている
肝井男の横を通り抜けるのは
あまりにも気色悪くて
汚くて 吐いてしまいそうなことだ
しかし決心して女の子は肝井男の横を
視線をそらし なるべく触れないように
通り抜けた
三人組となった女子高生達は
肝井男の存在が気になって
なかなか会話のきっかけをつかめない
せき払いやあいづちや呼びかけや笑いなどが
肝井男の耳に入る
そしてこちらを見ながら女の子達は
大きな声で笑う
時々こちらを見てそしてまた笑う
肝井男はその間ずっと
立ったままでいた
肝井男は自分の存在を消してしまいたかった
肝井男は人々に避けられ気色悪く思われ笑われる
肝井男には一生女性というものとの関わりがなく
肝井男はやがて腐っていく

CoyaNote2002085

どれだけ自虐的になれば気がすむんだい
自分をみにくく思ってばかりで
どうして良くしようとしないのだ

カッコつけようとする行為が
カッコ悪いんだよ

カッコつけなきゃカッコよくなれないぞ
このままじゃますますダサくなってしまう

ダサくていい
カッコ悪くていい
どうせ最低人間なんだから

もっとポジティブにいこうよ
暗く考えているから
物事がうまくいかないんだ

ポジティブな人間が
自分の中でどれだけ嫌いか
よく知っているだろう

それでもポジティブになるんだよ

自分が嫌いな自分に
なれるわけないだろ
このままでいれば
一生このままなんだよ

CoyaNote2002086

僕は絶対タオルを首に巻かない
たとえどんなに暑くても
汗をかいても
ロングヘアーのように
肩から垂らすことも
マフラーやネクタイのように
お洒落をすることもしない
あのタオルは
セコンドから投げ込まれた
敗北を意味する布きれなんだ
僕はたとえ殴られても蹴られても
負けを認めはしない
汗なんて体から出る汚れた灰汁
絞り出せば動きがよくなる
燃料漏れの赤い血なんて
手の甲で軽くぬぐいとってしまえ
とにかくタオルを首に巻くのだけはしない

CoyaNote2002087

牙を抜かれ声帯を潰された獣が
暴れることなんてもうできないだろう
おとなしく飼いならされて
家畜として従順に生きていくしかない

CoyaNote2002088

俺が負け犬だから
犬には哀れな男の
猫には健気な女のイメージを抱いてしまう

CoyaNote2002089

もはやありとあらゆるものが混沌としてしまった
今まできっちりと区別をつけていたはずの
綺麗なもの美しいもの大切なもの守りたいものと
汚いもの醜いもの隠しごと嫌気がさすものが
一つの容器の中に入ってしまい
何が何なのか判らなくなってしまった
ピンクやスカイブルーやオレンジやライトグリーンなどのビタミンカラーも
茶色や灰色や黒や紫などのくすんだ色も
混ぜてしまえば関係ない
濁ったポップカラーでも
ポップで濁った色でもない
透明でもない
良いことも悪いことも結局は同じ
区別し隔離しても無駄である
表も裏もない
形がない
悲しい喜びでも
嬉しい寂しさでもない
理解できない感情
混沌の正体を見る
唯一の方法は
容器の中の不確かな色を顔に塗り
その姿を鏡に映し
表も裏も形もない行為をして
その結果を知り
理解できない感情になり
心臓に手を当ててみること

つまりその混沌の正体とは
肝井男の君自身である

CoyaNote2002090

どれだけ大都会へ行っても
バスに乗っても地下鉄に乗っても
フェリーに乗っても飛行機に乗っても
高層ビルに行っても巨大交差点を渡っても
人混みの中に揉まれてもお洒落な喫茶店でお茶を飲んでも
最後には結局
土や草や農薬の臭いのする
田園の中の一本道を
自転車で通って帰ることになる
その時の周りの景色が
断続的に変わっていくギャップに
耐えられない
ようするに世間知らずの田舎者なんだよ
このガキが

CoyaNote2002091

翼を折られ巣を壊された鳥が
羽ばたくことなんてもうできないだろう
おとなしく飼われて
卵を産んで生きていくしかない

CoyaNote2002092

何だか無駄に動き回っているばかりで
得るものはなくて
疲ればかりがたまって
自分の首を絞めているような気がする
何もしなければ
何も得ないし
何も失わない

CoyaNote2002093

疲れ果てて眠るその場所が
天国であるように
白い雲の柔らかなベッドは
傷を治してくれる
恵みの雨の根源的な水は
渇ききった喉を潤してくれる
すぐそばにある太陽の光は
ほのかなぬくもりを与えてくれる
とにかく倒れるときは仰向けになれば
その可能性は大きくなる

CoyaNote2002094

こんな穏やかな秋の日の
昼下がりには
太陽の光で
ほんの一瞬目がくらむ
白くぼやけた視界で
何も見えなくなる
その時に
永遠が次元の壁に
小さな穴を開けて
姿を現している
あの景色の向こうには
永遠がある
だがその小さな穴は
すぐに現実という土で
隙間を埋められて
気がつけば何もなかったようになる

CoyaNote2002095

起床間もない電車は
朝食としてこの駅の乗客を
胃の中に押し込む
一気にぎゅうぎゅうづめになった
細長い食堂 胃 小腸 大腸
電車は途中の小さな駅で
まるで箸休めのように
少しずつ人を呑み込む
そして十分くらい経つと
満腹で苦しくなってくる
車内にも飽和した空気が流れる
どこか体の内部が
とても重く感じられる
そして胃が限界に達し
炎症を起こし 痛み出したら
あの駅で一気に消化物を吐き出す
騒がしい声と共に
大半の乗客が降りる
かなりすっきりした胃の中で
必要な栄養分だけを
ゆっくりと時間をかけて
消化吸収をする
酵素の車内アナウンスが分泌される
そして絞り出たかすを
終点で排出する
こうして朝のラッシュアワーは
電車の豪華な朝食は終わる

電車の中の飽和した空気に
寂しさを感じてしまう

CoyaNote2002096

不幸体質を脱ぎ捨てろ
悲劇の主人公になんてなるな
汚くてもズルくても
上手に渡っていて
薬を服用してでも改善しろ
そんなくだらない生活習慣病は
言い訳にも
自分を正当化する理由にもならない

CoyaNote2002097

エラをつぶされヒレを切り取られた魚が
泳ぐことなんてもうできないだろう
おとなしく飼いならされて
水槽の中で人工呼吸をされるしかない

CoyaNote2002098

平穏で何もなくて
羽ばたくことも墜落することも
輝くことも濁ることもない
名誉も汚名もない
そんな生活を
君は望んでいたはずだろう
不満なんて言ってはいけない
このまるで温度の感じられない
水の中で
ただひたすら
おとなしく静かに
生きていくしかない
凡人よ

CoyaNote2002099

手触りは確かにあるのに
近づくことも姿を見ることもできない
それが未来であり成功であり
そして幸せであると信じていても
ただの蟠りかもしれない

CoyaNote2002100

まずは消すことから始める
それまでの悩みや迷いを
消しゴムを引くことで
真っ白に戻す

CoyaNote2002101

何を描きたいのかが分からない

CoyaNote2002102

暗闇で割れやすいグラスを
手探りで見つけようとしている
少しでも触れてしまえば
すぐに壊れてしまいそうで
慎重にゆっくりと

CoyaNote2002103

ペンキ
メタファ

CoyaNote2002104

緑色に生命力豊かに茂っていた
街路樹
夏の燃えるような躍動感を
表すような
その緑から青色を抜いたら
寂しさばかりの黄色になってしまった
少し疲れたような黄色には
どこまでも高く上っていくような
力強さなどない
風に揺らされて落ちないように
必死で耐えるだけ

抜かれた青色は
寂しさを混ぜて
憂いの秋の空となった

CoyaNote2002105

燃えあがる夏の街路樹の緑色から
憂いの青色を抜くと
寂しい秋の黄色になりました
でも逆に
憂いの青色と寂しい黄色をいくら混ぜても
生命力あふれる緑色にはなりません
そこに出てくるのは
思い出と後悔と
そして不安ばかりの
黒い色です
もう元の色には戻れません
原色を生きて下さい

CoyaNote2002106

小さな部屋
閉ざされた扉を久し振りに開く
何一つ変わらない風景にも
新しい季節 冬が訪れていた
寒さを細かく切り刻んだ
埃の雪が
机の上にも本棚の上にも
ステレオの上にも鞄の上にも
平等に降り積もっていた
壁に掛けてあるカレンダーは
先月のままですっかり黄ばみ
端が破れ 形がねじれている
枯れ葉を散らすように
そのカレンダーを引きちぎる
雪を踏み分けて夜に終止符を打つ
カーテンを開ければすぐに朝になる
窓の格子に切り取られた真四角の光
冷たい空気は手足の感覚を鈍らせる
ため息が木枯らしとなる
弱い日差しよりももっと強い太陽をつくるため
ストーブに火を点ける
微かな石油のにおいが
寂しさをより大きくする
何もかもを一度終わりにして
孤独や不安を味わわなければ
前へ進めない
必ず経験しなければならない
この冬の
いつものような
始まり

凡人があきらめる

僕はある日悟ってしまった
僕は天才でも何でもないことを
僕はある日悟ってしまった
僕には才能なんてないことを

幼い頃から他人とはどこか違うと
勝手に思っていた
変わっているという誰かの一言が
誉め言葉だと思っていた

幼い頃から僕には
天才の血が流れていると思っていた
選ばれた人間なんだと
優越感の中にだけ生きていた

幼い頃から僕には
才能があると思っていた
努力もしないで何でもできると
怠惰な毎日を送っていた

幼い頃から僕は
天才の血が流れていると教え込まれていた
遺伝子が受け継がれているのだと
僕もそれを本気で信じていた

幼い頃から僕は
才能があると教え込まれていた
神が与えた力を持っていると
僕もそれを本気で信じていた

確かに僕には
天才になれる可能性はあったかもしれない
天才になれる素質はあったかもしれない
でも結局天才にはなれなかった

確かに僕には
才能のかけらはあったかもしれない
才能の予兆はあったかもしれない
でも結局才能を得ることはできなかった

いや最初から僕には天才の可能性も
素質なんてものもなかった
最初から僕には才能のかけらも
予兆なんてものもなかった

それなのに僕は
自分が天才であると思い込み
自分には才能があると思い込み
これまで生きてきた

あれは幼稚園児の時だったろうか
僕は誰よりも頭が良いと思っていた
字も読めるし数字だって分かる
時計の長針と短針で時刻を言い当てると
周りの人は一斉に驚き
そして僕を誉めるのだった
天才という言葉をもって
僕はそれが快感でしかたなかった

あれは小学校一年生の時だっただろうか
僕は絵画コンクールで賞をもらった
それ以来僕は
絵が上手いのだと思うようになった
絵の天才だと
絵の才能があると

あれは小学校二年生の時だっただろうか
僕は読書感想文コンクールで賞をもらった
それ以来僕は
文学の天才だと
文学の才能があると思うようになった
僕が読む本は難しくて他の人には理解できない
僕だけが分かるから僕は天才だと

あれは小学校三年生の時だっただろうか
僕は満点ばかりとっていた
僕は頭が良い
僕に解けない問題なんてないと思っていた
他の人を見下して馬鹿にしていた
こんな問題も解けないなんて
知らない奴には教えない
僕はいつもそう思っていた

僕は決して自分が天才ではないと思わなかった
自分の才能を疑わなかった
天才の僕は何でもできると
そうとしか思ってなかった

あれは小学校五年生の時だっただろうか
僕はもはや何でもできると思っていた
頭も良い
絵も上手い
文学にも精通している
もう天才以外の何者でもない
毎日才能を見せびらかしていた

あれは中学校二年生の時だっただろうか
僕はいろいろなことがあって美術部に入部した
そしてそれまでのように僕は絵の天才だと思って
口先ばかりが出しゃばっていた
僕には才能があるとだけ言っていた
実際はほとんど絵なんて描いていなかった
そして僕は何でもできると思っていた
あらゆることをやってしまった
その時誇りに思っていたことが
今となってはただの後悔に変わっている

僕は天才であると思い続けていた
あふれ出して止められないものこそが
才能であると信じていた
天才だから激しいことをやったのだと

僕が初めて天才であることを 自分の才能を疑ったのは
高校の前期入試で不合格になった時だっただろうか
今まで順調だったはずの人生が
それまで築き上げてきたものが一瞬で崩れ落ちたようだった
それでも僕はまだ信じ続けていた
本当のことを知るのが恐かった

そしてたった今

僕は悟ってしまった 僕は天才でも何でもないことを
僕は悟ってしまった 僕には才能なんてないことを

高校に入学してあまりにも劇的に
僕の周りの環境が変化した
高校では僕は頭が良いわけではなく
絵が上手いわけではなく
文学に精通などしてはいなかった
だんだんと僕の化けの皮がはがれるように
僕の正体が見えてきてしまった

的確な指導も受けないままに
独り善がりで何もかもやってきた僕が
天才であるはずがなく
当然僕に才能なんてない

僕は凡人だったのだ
僕は天才でも才能があるのでもない
凡人だったのだ
今まで僕が思ってきたもの 信じていたものは
教え込まれていたもの やったこととその結果は
全て幻想だった
僕を今まで包んでいた化けの皮は幻想だった

僕は凡人である
そのことを認めたうえでこれから歩いていかなければならない
もはや天才ではない 才能もない 凡人である
そして僕は凡人であることが当たり前のはずだった

第3冊ノートを終えて

前回のノートが、時期が交錯したり、空白があったりとあまりに中途半端な形で終わってしまったのに対して、このノートは最初から最後まで、全て高校に入学してからのものであり、完全な終結を迎えられたものである。書き出したのが2001年の10月頃だったので、およそ1年と1ヶ月かかった。しかし今年の5月まではまだノートの1/4ほども書いていなくて、このままではいつ終わるのだろうとかなり不安にも思っていたが、6月そして夏休みに、これといった自覚もなしに書き進んで、11月まで一気にきた。それからまた何もできない日々が続いたが、残りの5ページは今日だけで書き上げた。時間の流れが不定期であった。

高校に入学して、あらゆるものが変化し、もう中学生の時のようなことはできない、あの頃には戻れないと感じた。細々とした時間の中で、その場の勢いではなく何とかひねり出してできた言葉には、もはや魅力などないだろう。正直言って、やっとこさ終わらせたようなものだ。一つだけ大きく変わったことといえば、インクの色を黒から青にしたことだ。これにより今までとはかなり見映えがよくなった。

何とか終えた、詩とももはや呼べない言葉の連なりをノートに記すことを、果たしてこれからもやっていけるかどうか、分からない。もしかしたら、これでもう最後かもしれない。いずれにせよ、これから寂しく厳しい季節が続く。窓の外でも、生活の中でも。

2002年11月24日 プラス思考でCoya


紙片

2002年

CoyaNote2002107

何事も最初は慎重に、ペースを抑えて走り出すことだ。そうでないと途中で疲れ果ててしまう。

CoyaNote2002108

決して目立たず、自分から積極的に前を目指さず、ただそこに存在だけしている。

CoyaNote2002109

決して写真を撮る時には、笑わず、ましてピースサインなどせず、まるで氷のような無表情で仕方なしに写されてしまう。

CoyaNote2002110

お菓子やあめなどあらゆる嗜好品を食べない。

CoyaNote2002111

はしゃがない。

CoyaNote2002112

観光名所のすぐ近くにホームレスのテントがあるのが現実だ。

CoyaNote2002113

こんな世界は、君のいる場所じゃない。ここに存在してしまってるだけで、虫酸が走るようだ。気持ちが悪くなってくる。今すぐこの場所から逃げ出したい。消えてしまいたい。周りの人間の視線が気にかかる。まるで異物を見るかのような目。

何もできない。必死でやってみるけれど、おかしな人間と思われて、笑われて、恥をかいて、後悔となって、ずっと心に残って忘れられなくなる。こんな、田舎者で臭い世間知らずのパイン。